屍術師
「目視できるだけでも500………時期に倍にはなりそうだな。いくら雑魚とは言っても、あれだけ数を集められると、ちいとばかし厄介だぜ」
言葉とは裏腹に昂揚感を堪えきれないように笑みをこぼすデボラの横で、ミナトはシャルロッテから贈られた望遠鏡を覗き込み、敵の陣容をつぶさに確認する。
「スケルトンだけじゃありません。ヘルハウンド、ロッティッングコープス、リビングメイル………少数ですがレイスにリッチまでいます。術者らしき姿は………ここからじゃ確認できませんね」
「自然発生………なわきゃねえよな。これだけ大掛かりな死者の軍勢となりゃ、近くに屍術師がいるはずだ。まっ、なにが目的かは知らねえが、簡単に尻尾を出すほど間抜けとも思えねえ。術者を直接叩けねえ以上は、あのアンデッド共に自分はもう死んじまってんだって事を力ずくで思い出させてやるしかねえな」
デボラの言葉にミナトは無言で頷いた。
アンデッドは負のエネルギーの集積により自然発生することがあり、特に死者の怨念やマイナスな感情が集まりやすい場所では、時に数千を超える数のアンデッドが出現することとなる。
それ故に戦場には常に聖職者が伴われ、敵味方の別なく死者が正しく冥界の門をくぐれるよう丁重に葬られるのだが、そういったこの世界の輪廻を嘲笑うかのように生者の世界に未練を残した死者の魂を使役し、意のままに操るのが屍術師である。
屍術師はその能力的な特性だけに着目すれば、召喚士と魔物使いの中間に位置する存在といえる。
無から有を生み出す召喚士よりも少ない魔力で大軍団を使役することが可能であり、また魔物使いのように自ら使役する魔物を長い時間をかけ集め育てるという労力もかからない。
しかし、一方では清められた土地では十分な力を発揮できないこと、魔物と異なりアンデッドは総じて知性が低く指揮系統の構築が難しいなどのデメリットも存在する。
「古戦場でもないのに、あれだけの戦力を呼び出すことが出来るとなると、術者は少なくとも竜鱗級………ひょっとしたら六大魔公クラスの可能性もあります」
「ちっ、ウチの化け物二人がお出かけしてる裏を取られたな。もしくは端から機会を窺ってたのか………どちらにしろ、今は余計なこと考えてる暇はねえ。手持ちの戦力であいつ等を追い払うことだけを考えるぞ」
櫓から降りたミナトは四方に伝来を飛ばし、女子供に老人、そして王都に立ち寄っている商人達に避難を命じる。
デボラにより王都の住人は危急の事態に対応できるよう最低限の訓練は受けており、いざという時の行動は頭には入っているが、事前にどれだけ備えようとも魔物の襲来を告げる鐘の音を聞けば自らの村を襲われた際の記憶が蘇り、王都は混乱の極みに陥った。
「落ち着いてください!!訓練通りにすればなんの問題もありません!!敵が王都を襲うまでまだ十分な時間があります!!ゆっくり歩いて、ぶつかって子どもが倒れないよう安全に避難してください!!あの程度の相手、ボクの敵じゃありませんから!!」
ミナトは声を張り上げながらも笑みを絶やすことなく、時に下手な冗談を挟みながら王都に広がるパニックを抑えこむ。
(ボクの敵じゃないか………我ながら嘘が上手くなったな)
敵勢と王都に残る者の戦力………彼我の力関係は決してミナトが軽口を叩けるようなものではない。
デボラは竜鱗級と評される実力を有する優秀な冒険者ではあるがあくまで一戦士に過ぎず、雲霞の如く押し寄せる死者の軍隊を一人で押し留めることは出来ない。
恐怖も痛みも感じず、ただ生者を憎み自らと同じ世界に引き込もうとするアンデッドは、仲間がどれだけ倒されようがその屍を踏み越えて行進を続けるからだ。
たとえデボラが一人で敵を300討ち取ろうと、残りの敵に王都を攻め落とされれば、それは敗北を意味する。
ミナトは自分に課せられた使命を噛みしめる。
多少の訓練を施したとはいえ戦力的には素人同然の男達を率い、貧弱な城壁を頼りに王都を死守する。それも誰一人死なせることなく。
これまでの戦闘とは全く性質の異なる死闘が今始まろうとしていた。
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