ランキング
「ステラちゃ~ん、こっちもお願い」
「おいっ、俺が先に頼んだんだぞ、大人しく待ってろよ!!」
「はいは~い、喧嘩しちゃダメだしぃ」
二人の商人に呼び止められたステラは慣れた様子で酒や料理を運び、一言二言会話をすると次の客の給仕に移る。
「凄いね、あの厄介なお客さん達を完全に手懐けてる」
ミナトは数刻前まで他の給仕に執拗に絡んだことで酒場を追い出されかけていた男達が、子兎のように 大人しくなっている姿を目にし、感嘆の声をあげる。
「給仕としては未熟ですが、男をたぶらか………引きつける能力に長けていることは認めましょう。まあ、あの短いスカートをヒラヒラとさせて客を釣る手法は、酒場よりも娼館向きかとは思いますが。だいたい、どうして生足をあんなに出す必要が?エプロンは胸を強調させるため道具ではありませんが??そもそも人と同じ耳がついているのに、頭の上から生えているウサ耳はなんなんですか???狙ってますよね、明らかに可愛いと言われたいがために接着剤でくっつけてますよね????これはもうラビットマンという種族自体がご自慢の顔と身体で男を食い物にする穢れた存在なのでは?????あの制服はミナト様の趣味だということですが、私は着るように言われたことは一切ないのですが???????」
「アルシェ、ストップストップ!!ほ、ほらっ、ステラも頑張ってくれてるしさ。ちょっとアルシェとはやり方が違うかもだけど………」
「ステラちゃん、あれやってよ、あれ」
ミナトがアルシェなだめていると、再び一人の酔客がステラに声をかける。
「えぇ~、別料金だしぃ」
「いいじゃん、もう一杯………もう十杯頼むからさ」
「もぅ、仕方ないなぁ、これで最後だよ。………美味しくなぁれ、美味しくなぁれ、いっくよ~、もえもえキュ~ン」
ステラはシチューに両手を使い胸の前でハートマークを作ると、胸元から取り出した小瓶から料理に調味料をかけ、トドメと言わんばかりに投げキッスをする。
「………ちょっと?」
「い、いや、あれはリオが悪ノリして教えたことで、メイド喫茶では王道な必殺技として認識されてるというか………」
ミナトがしどろもどろになっていると、二人を見つけたステラが小走りで駆けよってくる。
「あ~、ミナトだしぃ。なに話してるの~。わかった、今日の指名ランキングの予想してるんでしょ。もち、ウチが一番だよ、3日連続ナンバーワン!!」
「………指名ランキング?」
「ミナトが作った仕組みだよ、アルシェ知らないしぃ?売ったお酒が多ければ多いほどインセンティブってのがついて、お金がたくさん貰えるの。トップ3はお店に名前も張り出されるから、お客さんも推しの子をナンバーワンにするため頑張ってくれちゃうの。ウチらも明日こそは自分がナンバーワンになるんだって、スカートもどんどん短くなったりぃ?最後にはみんな履いてないかも、ウケる~」
………
……………
…………………
コールタールよりも重苦しい沈黙が場を覆い、ステラは不思議そうに人差し指を唇に重ね首を傾げる。
「ミナト様、仰りたい事があれば伺いますが」
「こ、これはリオのアイデアで、その………ゴメン、ボクも面白いかなって思ってノリノリで許可しました」
「え~、ミナト悪くないしぃ。あっ、ひょっとしてアルシェ、ウチらに負けて悔しいの?ゴメンね、やっぱり皆可愛い子が良いみたいで、人気独占しちゃって。でも、アルシェの接客も良いと思うよ、お婆ちゃんみたいで安心感があるよね」
「あぁん!?」
「アルシェ!?落ち着いて、なんか出しちゃいけない声出てるから!!」
「ミナトもウチにはこの服着てってドゲってくるし、可愛さだけで全部奪っちゃう罪な女みたいな?だけど大丈夫だよ、ウチらは一夫多妻だからアルシェにもミナト貸してあげるから」
「ミナト様、お喜びください、たったいまシンギフ王国の名物料理がウサギ肉のシチューに決まりました。これから、あそこで鼻の下を伸ばしている酔っ払い共の腹にたっぷりとぶち込みたいと思いますので、ミナト様も食材を捕まえるの協力してくださいますか」
「きゃ~、ぼうりょくはんた~い」
陽光をうけ刃物のように光るアルシェの爪と、耳をひょこひょこと動かしながら酒場中をピョンピョンと跳ねまわるステラ。
二人の終わることにない鬼ごっこは、いつしか王都の名物となり、これまでとは新しい客層を生み出すこととなった。
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基本毎日投稿する予定ですので、完結までお付き合い頂ければ幸いです。




