論戦
「なにが神託の勇者だ!!我らは認めぬぞ!!アルベラが無力化している間に止めを刺せ!!」
民衆が奏でる狂想曲に冷や水を浴びせるように、騎士達はビクビクと痙攣するアルベラを取り囲み、何度も何度も得物を打ちつける。
しかし、そこには依然として人と大悪魔とを隔てる不可視の壁が存在し、騎士達はいたずらに疲弊し、無抵抗の相手すら倒せない無益な存在として人々の冷笑を買うだけであった。
「無駄、ミナト以外に六大魔公を倒せる者はいない」
騎士達が投げかけられる侮蔑に耐えかねアルベラから離れると、リオが何食わぬ顔でミナトの脇に戻り会話の主導権を握る。
(リオはやってることメチャクチャだけど、誰よりも堂々としているから全然怪しまれないんだよな………糸鋸でアルベラを脅してた時も、ボク以外誰もリオのこと見てなかったし、手品の本質が理解できた気がする………)
ミナトが半ば呆れ、半ば感心しつつ見ていると、リオは後は任せろと言わんばかりにグッと親指を立てる。
「ミナトは………そう、神託の勇者、とかいうやつ。凄い。偉い。ついでにエロい。でも、勇者として覚醒したばかり。成長途上。アルベラを封印する事は出来ても、殺す事は出来ない。そう、『審判の日』が来る、その時までは………」
(うわっ、また知らない単語………あっ、リオがいっちょかましてやったぜ感だしてる。あれ、多分適当にそれっぽいフレーズ並べてるだけなんだよな。リオのこと、だんだん分かってきたかも)
ミナトはキリリと痛む胃に手を当て、再び考える。
(きっと次はアルベラを封印した報酬として、ハーレム用の土地が欲しいとか、立派なお屋敷が欲しいとか言い出すんだ。どうしよう、いきなり王都に乱入して好き勝手した上におねだりとか、いくら良い感じの空気になってるからって、絶対王様激怒するやつじゃ………)
「そこで王様に提案、どこかにミナトの国が欲しい」
(ほら、やっぱり言った!!そうそう、ボクの国が欲しいって………………えっ!?)
「ミナト王国を要求する」
(えええええええええ~~~~~~~~~~~っ!!!!!?????ボクの国!?なんで!!??)
「貴様ッ!!一介の冒険者風情が国が欲しいだと!?何を言っているのか、分かっているのか!?」
「控えよ!!勇者ミナトの従者リオよ、大胆な提案ではあるが、それ相応の考えがあってのものと見受ける。存念を聞こう」
「ミナトがアルベラを封印しても、いつ解けるかは謎。不明。だから、大結界を作りたい。大結界のためにはでっかい領土が必要。数万人集めたハーレム作れるくらいの」
「ハーレム?」
「んっ、口が滑った。今のは忘れるように。話を続ける。もし封印が解けても、結界さえあればすぐには出られない。閉じ込めてる間にまたミナトが封印すれば大丈夫。安全安心。ただ結界の中の人は危険。超危険。例えばここに結界を作ると、王都全員の命が危険。危険が危ない。だから国を作りたい。ミナトもそう言ってる」
リオは勢いに乗って一気にまくしたてる。一言毎に語気は強くなり、頬は興奮からほのかに赤く上気している。その瞳は誰よりも純粋に己の勝利を確認しており、後はもう風呂に入って一杯ひっかけて寝るだけのような達成感に溢れている。
「ふむ、従者リオの直言、感謝する。だが、先ほどの仮定には矛盾がある。広い土地が必要だという事は理解するが、それが国である必要性は認められない。むしろ、封印が解けた際の不利益を考慮すれば、無人の荒野こそが相応しかろう。もちろん、そのような辺鄙な場所にミナト殿を留めておくことが国家の損失であることは明らかだ。そこでこちらからも提案したい。ミナト殿に相応の爵位を与え、領主として封印の地を治めてもらうというのは、どうであろうか。従者リオにも騎士の称号を授けよう。不足する物資や人足もこちらで用意しよう。これで、双方の懸念は解消され、共に六大魔公の脅威と戦うことが出来ると考えるが、如何に」
リオは王の提言に少し首をひねり、ひねり、ひねり、ひねり続け、遂にはクルリとミナトのほうに振り向き、「後は任せた」とでも言うように親指をビシッと立て、ミナトの肩を掴み王と対峙させた。
王とミナトによる壮絶な論戦が、いま幕を開けようとしていた。
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