オーパーツ
「こちらが六大魔公の一人、鮮血公『金色のアルベラ』です。封印されているとはいっても、近づくと危ないかもですし、少し離れてご覧下さい」
ミナトは博物館の学芸員のように男を偽アルベラのもとへと案内すると、自然な形で近づきすぎないよう誘導する。
氷の城は麓の喧騒から切り離されたかのように静寂に包まれており、肌を撫でる冷気は真冬の寒波よりも数段厳しい。
男は真紅の結晶に覆われた偽アルベラを喰い入るように見つめ、やがて口角を僅かに綻ばせたかと思うと、ゆっくりと口を開いた。
「美しいわね、まるで人形みたい」
人形という言葉にミナトは思わず身を縮ませる。
(まさか、気づかれた!?いや、高位の冒険者であったとしても、触れることなくアルベラの幻術を見破ることは不可能なはずだ………竜鱗級冒険者でもない限りは………)
ミナトは自らの記憶庫から竜鱗級冒険者のリストを取り出し、それぞれの身体的特徴を脳内テーブルに並べていくが、目の前の男と一致することはなく、そのことがミナトに多少の落ち着きをもたらした。
(よくよく考えれば、こんな目立つ人が竜鱗級冒険者になったらギルドで噂になってるか。高位の冒険者でないとすると、ジェベル王国の宮廷魔術師とか帝国魔法学院の研究者辺りだと違和感を覚えそうな気もするけど………人を見た目で判断するのは良くないけど、どう見ても宮仕えって雰囲気じゃないよね)
ミナトは改めて男の格好をまじまじと見つめる。
身に付けている衣服は現代で言う所のパンクファッションに類似している。
ビニールのような光沢を持つ薄手の革はピッタリと引き締まった肉体を包み込み、男の一挙手一投足に合わせ自在に伸縮しており、中世から近世程度の科学力しか持っていないこの異世界において、到底作り出せる素材でないように思える。
(だけど、それだけで特別な人だって決めつけられないんだよなぁ………)
ミナトはこの異世界において、時に現代を思わせる服装をする一般人がいることを思い返す。
最初はミナトと同じく現代社会からの転生者かと思い、それとなくかまをかけたこともあるが、当人はごく普通の冒険者であったり、商人であったり、吟遊詩人であったりするのだ。
服装のことを尋ねてみても、彼らの生まれ故郷における特産品のような扱いで作られたものであり、製作の過程で生じるであろう技術的な問題は魔法でクリアしているという。
服飾が辿るべき歴史の流れのなかで突如生まれたオーパーツのような存在であるこれらの服装は、この異世界における特殊な進化の一端なのか、それともミナトのような転生者の存在を示唆するものなのか、はたまたそういった服装に身を包む者自体が転生者であるのか、ミナトは見分ける術を持ち得なかった。
「金色のアルベラは信じられないくらいの美人だとは聞いていたけど、ここまで綺麗だなんてね。これじゃ討伐に向かった男達が籠絡されるのも無理ないわ」
「そっ、そうですね、ははっ」
(良かった、気づいたわけじゃないみたいだ)
ミナトは男の口から発せられた月並みな感想にホッと胸を撫で下ろす。
「案内してくれてありがとう。そうだ、迷惑ついでに一つ聞いていいかしら」
「はい、答えられることでしたら」
「貴方は『真実の美』って聞いて、何を思い浮かべる?」
男は昼食の予定を聞くような自然さで、抽象的な問いを投げかける。
「『真実の美』ですか?」
「そう、美しさの本質、アタシはずーっと『真実の美』を追い続けているの」
「美しさの本質………すいません、少しだけ考えてからお答えしていいですか」
「もちろん、そうしてくれると嬉しいわ。………人にはきっと自分だけの『真実の美』が存在すると思うの。だけど、誰もが本心を隠さず語れるわけではないでしょ?心の奥底を曝け出すのは恥ずかしいし、難しいもの。それに自分自身が本心だと思っているものが、真実だとも限らないしね」
滔々と語る男の言葉が、魔法のようにミナトの脳内を幾度も駆け巡る。
得体の知れない男から突きつけられた答えのない問い。
しかし、ミナトはその問いに対し、適当に答える気にはなれなかった。
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