招かれざる客
「今日もすごい賑わいだね」
午前中の政務を終え天幕を出たミナトは、相変わらずの人混みに感嘆の声をあげる。
「んっ、千客万来」
リオは後方で腕組みをし、忙しく走り回る仲間達の姿をコクコクと頷きながら眺めている。
「人手不足は益々深刻だね。リオ、今日は外に出る出る予定もないし、アルシェ達を手伝ってあげて。ボクはデボラさんの方を見てくるよ」
「一人で??ToLOVEるしにいくつもり??」
「ToLOVEるするって何!?動詞なの、名詞なの!!??」
「んっ、仕方ないから気づかない風を装う。夫が浮気をしやすい環境を自然に整える正妻の鑑。ベストマザー賞まったなし」
「それ呪いの装備!貰うと不幸が起こるアイテムだから!!………はぁ、心配しないで、本当に建築部隊の様子を見にいくだけだからね」
ミナトの言葉にリオはサムズアップで応じ、「今晩はお楽しみですね」という意味深な台詞だけを残し、何回から遮蔽物の陰からこちらの様子を覗き見しながら、数分かけてその場を後にした。
「もぅ、絶対信用してないよなぁ………リオの勘はちょっとだけ当たってるけど」
ミナトはリオがアルシェのもとに向かったのを確認すると、視察をする体で周囲の様子を窺い、冒険者時代に身につけた隠密スキルを如何なく発揮し、誰にも気取られる事なく移動する。
「よしっ、誰もいないな…………ふぅ」
ミナトは背筋を伸ばし、大きく息を吸い込むと、丘の上でに光輝く『スノーアゲイン⭐︎ワンナイトキャッスル』を見上げる。
エランとの城勝負から5日が経っているが、魔法で作られた氷の城はなお美しさを一片も損なうことなく、冬の澄んだ陽光をうけ王都を照らしている。
「流石はアルベラだなぁ。冬の日の光くらいなら全く溶けないよ。ひょっとしたら夏も大丈夫だったりして」
ジェベル北部は比較的寒冷な地域と言うこともあり、真夏であっても現代日本のように外を歩くだけで命に危険が及ぶような暑さにまでは至らないが、それでも日差しは容赦なく大地に照り付け、暮らす者の肌を焼く。
そんな中、氷の城が保たれていれば、観光名所としての価値は中々に高そうに思われた。
「六大魔公饅頭は売れなそうだけど、かき氷とか出店を出せば良い商売になるかも」
「こんにちは、教えて欲しいことがあるんだけど、いいかしら?」
「はいっ!!」
背後から突然声をかけられ、ミナトは反射的に声を上げる。
(いつの間に後ろに!?ボーッとしすぎてたのかな、全然気配を感じなかった。いったい誰………!?)
振り返り声の主を目にしたミナトは、再び身体を硬直させた。
そこには顔に無数の鋲をうち、光沢のある黒と青のボンテージに身を包んだ、長身の男が立っていた。
物腰や声色こそ穏やかだが、どう見てもまともな職業についている雰囲気はなく、全身から湧き上がる異質さは、覇王都NOBUNAGAのような田舎において圧倒的なまでの異彩を放っている。
「なぁに、化け物でも見るような顔しちゃって。わかった、アタシのスタイリッシュな着こなしに面を食らって、何者か気になってるってわけね。いいわ、当ててみて、何に見える?」
男は両手を天に向かって突き出す扇情的なポーズを取り、黒く塗られた唇を鳴らす。
「えっ!?………あっ、げ、芸術家の方ですか??」
「ブッブー、ふ・せ・い・か・い。見ての通り、ただの行商人よ」
(いや、それは無理がある!!真っ赤な服に謎の仮面をつけて軍人アピールする人くらい胡散臭いから!!)
あまりに理不尽なクイズに大声でツッコミたい気持ちを抑え、曖昧な笑みを浮かべると、男は心を見透かすようにニコリと微笑を浮かべ、氷の白を見上げた。
「六大魔公の一人、鮮血公『金色のアルベラ』が封印されたって聞いて、一度見てみたいと思ったの。ひょっとして、あの氷で出来た墓標に閉じ込められてるのかしら。まさか、死体を氷漬けにして腐らないようにしてるとか?」
「あっ、いえ、あの氷の城はシンギフ王国のモニュメントと言いますか、偶然出来た物で………もしご覧になりたいならご案内しますよ。冒険者の方ですよね?」
「当たらずとも遠からずってとこね。仕事柄、噂になってるような事は自分の目で確かめたいの。助かるわ、お言葉に甘えさせてもらうわね」
男はそう言うとミナトの臀部をポンと触り、ネットリとした笑みを浮かべた。
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