貴族狩り
「エランさん、お元気で」
一夜明け、ミナトは枠組みだけが作られた粗末な城門までリオと共にエランを見送りに出ていた。
エランは昨夜の酔いがすっかり醒めているのか平然とした顔で馬に跨り、その背にはテオがピタリとくっついている。
「おっと、そうだ、最後に伝え忘れてた事を思い出したよ。王都で噂になってるんだが『貴族狩り』に気をつけてくれ。ココには美女が多いからねえ」
「貴族狩り?」
「まだ一部貴族の間でしか出回ってない怪事件の類さ。話によると美しい貴族のご令嬢を狙って、誘拐が続いてるらしくてねえ。馬車で街道を行き来していると貴族狩りの襲撃にあうって噂なんだよ。貴族狩りから何か要求があるわけでもなく、何日か経つと街道沿いの目立つ場所に解放されるらしいんだが、被害にあったご令嬢は口にするのも憚られるような状態だったらしい………命は助かったみたいだけどね」
陽気で朗らかなエランから発せられた、吐き捨てるような憎しみを込めた言葉が、誘拐されたという貴族令嬢に降りかかった惨劇を何よりも雄弁に物語っていた。
「馬車を狙った誘拐………」
ミナトは王ではなく、一冒険者の顔に戻り思考を巡らせる。
馬車で移動するような名の通った貴族であれば、普通は御者以外にも数名の護衛を伴う。仮に奇襲を仕掛けるとしても、単独犯であることは考えづらい。
しかし、そう考えるとエランの物言いにひとつ引っ掛かる点が生じる。
「身代金目的の犯行ではないんですか?」
単独犯であれば自らの性的欲求や暴力性を満たすためだけに蛮行に及ぶことは十分に考えられる。だが複数犯である場合、金銭など何らかの実利がなければ犯人同士の連帯を維持するのは難しい。
「ああ、金銭的な被害は無いそうだ。金で解決できるような問題であれば、これほど良いことはないけどねえ。今回ここに立ち寄ったのも、貴族狩りの手がかりを追っていたというのもあるのさ。交易が再開して以降、馬車の往来が増えているだろ。あくまで狙いは貴族のご令嬢ということだし、ミナトの耳に入っていないならこの辺りは安全だと思うけど、リオちゃんがそんな目にあったらと思うと怒りで身が震えるじゃない。俺が貴族狩りを捕まえるまで、気をつけてくれよ」
エランは自らを落ち着かせるようにわざと口調を変え、パチリとリオにウインクする。
「はいっ、エランさんも無理をしないで下さい。もし、ボクが手伝えることがあれば何でもしますから」
ミナトの言葉にエランは目礼で応え、掌で愛馬の世話軽く叩いた。
「テオつかまってろ」
エランが手綱を引き絞ると、馬が大きく一同いななき、前脚を高々とあげる。
「ビスダン!!」
次の瞬間、エランとテオを乗せた栗鹿毛の名馬は、凄まじい速さで草原を疾駆し、その影はあっという間に地平線へと消えていった。
「キザだなぁ。でもエランさんらしいね」
ミナトが苦笑いを浮かべつつ振り返ると、遠くから息を切らしながらアルシェが駆けてきた。
「………エラン様ッ!!!ミナト様、お二方はもう出立されましたか!?」
「どうしたの、そんなに急いで」
「ハァッ……ハァッ………やられ……ました………」
アルシェは苦しそうに腹部を抑え疼くまる。
「………えっ!?まさか、えっ、そういう!!??」
「ワンナイトキャッスルでスノーでアゲインな一夜を過ごしちゃった系??これは濃厚なNTR展開。ミナトの脳が中までこんがり焼かれてしまう」
「何を仰ってるんですか、やられたんです!!………食い逃げです!!」
「食い逃げ?」
「貴族然とした態度に謀られました。『宿に荷物を忘れてきたじゃない。明日倍にして払うから楽しみにしててね、アルシェちゃん』などと堂々とのたまっていたので、すっかり信じてしまい………ミナト様、馬をお借りして良いですか?今から身ぐるみを剥がしてでも取り立ててきます」
「ははっ、せっかくカッコよく帰ったんだし、そっとしといてあげて。食事代以上の情報も貰えたしね」
ミナトは未だ怒りが冷めやらぬアルシェを宥めながら、新たに出来た友に心の中で手を振り続けた。
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