高嶺の花
「シェーン!!くぅ、やっぱり美女と一緒に飲む酒は格別だねえ。アルシェちゃん、もう一杯貰えるかな」
エランがジョッキになみなみと注がれたエールを一息で飲み干し、忙しく給仕をして回っているアルシェに声をかける。
「いや、なんか良い感じに帰りましたよね!?なんでサラッと皆に混じって飲んだくれてるんですか!!」
王都を巡視していたミナトとリオはすっかりくつろいでいるエランを見かけ、近くに放置された木箱を手に取り椅子かわりに腰かける。
「両手で抱えきれない程の美女達を放っておいて帰るなんて、英雄エランには出来ても、漢エランには出来ないじゃない。ねえ、レティちゃん」
給仕の手伝いをしているレティは軽く手をあげエランの軽口に応じると、そそくさと奥へと引き上げていく。
「そんなメチャクチャな………」
「よくよく考えたら、この辺りの土地勘なんて皆無だからねえ。俺一人ならともかく、テオを連れて危ないことは出来ないじゃない。おっ、エルムちゃん、だいぶ空いてきたし、隣に来てよ。好きなもの奢るよ」
「いやよ、今日もどれだけ酔っ払いの相手したと思ってるの。ミナトが相手してくれてるんだから、大人しく飲んでなさい」
「つれないねえ。でも、リオちゃんが来てくれたんだ、それだけで俺は世界一の幸せ者だよ」
エランは「リオちゃんの瞳に乾杯!!」と言うと、それを口実に再びジョッキを空にする。俗に言う、出来上がった状態であり、到底馬を駆ることは出来ないだろう。
「はぁ………確かにもう夜も遅いですし、今日はココに泊まっていってください」
「ダンケ、ミナト!!やはり持つべき者は親友だねえ」
「あ、ありがとうございます………」
テオはすっかり酩酊している主人に代わり丁寧に頭を下げる。エランはそんな従者の態度を殊勝に感じたのか、何度も頭を撫でまわしては「流石テオじゃない」と中身のない激賞を繰り返す。
(この雰囲気なら、あのことを質問してもいいかな)
「エランさん、一つ聞いて良いですか?シャルロッテと許婚だってのは………」
ミナトは意を決してエランに問いかける。
「本当さ………俺の人生計画としてはね」
「んっ、つまりは妄想、嘘八百」
「手厳しいねえ。まっ、事実だから反論のしようもないな。シャルロッテ様は我ら北部貴族にとって易々とは触れてはならない高嶺の花なのさ。だから、釣り合うような漢になるために頑張ってるってわけじゃない」
「高嶺の花………」
ミナトは脳裏にシャルロッテの姿を思い浮かべる。
確かに黙っていれば、その美貌は多くの貴族を魅了しうるだろうが、ミナトの頭の中では楽団が奏でる荘厳な音楽を背景に高笑いを浮かべながら燃え盛るといった奇行のミルフィーユ状態の姿が思い出され、ついつい高嶺の花の意味を考え込んでしまう。
「シャルロッテは美人ですし、ちょっと変わったところがあるけど賢いですから、惹かれる気持ちは分かります。それに加えて、ジェベル王国の第一王女ともなれば、引くて数多なんでしょうね」
当たり障りのない誉め言葉で会話を繋ぐと、エランの表情が不意にかげる。
「………ミナトは冒険者から六大魔公討伐の功で英雄になって、そのまま即位したんだったか。それなら、知らなくても無理はないが、シャルロッテ様はただのお姫様ってわけじゃないのよ」
「どういうことですか?」
「その前に質問だ。ミナトはシャルロッテ様とどんな関係だい?」
「えっ!?いや、その………ボクが言うのもおこがましいですが、個人としては大事な友人ですし、国王としては最高の師だと思っています」
「なるほどね、そう言い切れる関係なら、俺から余計な事を言うのはよしておこう。きっと時期が来たらシャルロッテ様から話してくれるさ」
エランはニコリと笑い、大きく一つ息をつく。
「ただ、これだけは言っておくよ。シャルロッテ様は俺らとは比べものにならないほど、大きな物を背負ってる方だ。そんな事はおくびにも出さないけどねえ。だから俺はシャルロッテ様を愛しているし、彼女の横に並び立っても…………彼女の責任を共に負っても、不足のない男でありたいのさ。ふぅ、酔いに任せて少しお喋りが過ぎたじゃない。酔っ払いは一足早く寝かせてもらうよ」
シャルロッテが背負うもの。
いまのミナトにはその言葉が意味することを知ることは出来なかった。
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