はじまり
冒頭部分は少しだけ真面目っぽい内容になりますが、すぐにタイトル通りのゆるふわ&ちょいエロ&ややアホな作品になっていきますので、しばしお付き合いください。
なお、話によってはやや激しめのエログロ描写がありますので、ご容赦ください。
誰かの為に生きたかった。
人の役に立ちたかった。
自分の命を繋ぎ止めるため、必死に頑張ってくれた全ての人に、恩返しをしたかった。
けれど、願いは叶わなかった。
ボクは何もできず、何も知らず、ただ多くの愛に包まれ、たくさんの涙に見送られ、無力な子どものまま死んだ。
だが、死んだはずの僕は生きていた。
いや、生きていた、というの正確ではない。
僕は生き返ったんだ。
この異世界に転生したんだ。
生まれ変わった僕は、みすぼらしいボロ切れのような服に包まれ、その両手には何も握られていなかった。
神からの啓示も、この世界で生き抜く異能も、知識も、武器も、魔法も、僕には何ひとつ与えられなかった。
………………違う。
ボクには既に与えられていた。
新しい肉体、新しい人生、新しい可能性を。
僕には自由に走り出すことのできる足があり、チューブなしでも胸一杯に息を吸い込むことが出来る肺があった。
これまでの人生で見たこともない広大な草原を駆け出すと、心臓が強く脈動し、けれども痛みも苦しみもなく、ただ身体中を血液が巡りゆく突き抜けるような激しい衝動だけがあった。
僕は異世界に転生し、新しい命を得た。
この命の使い道は決まっている。
誰かの為に生きたい、人の役に立ちたい。
多くの人が僕にそうしてくれたように。
そして、5年の月日が経った。
僕はまだ生きている。
そして、今日死ぬんだ。
「僕は今日死ぬ。死ぬためにここに来た」
少年は自らに暗示をかけるように、小声で呟いた。
大きくひとつ息を吸い込むと、冷たい空気が肺に満ち、思考を覆っていた重苦しい靄が僅かばかり晴れる。しかし、依然手足は強張り、奥歯は意思とは無関係にカチカチと音を鳴らしている。
「ミナト、なにゾンビみたいな顔してるの。そんなんじゃ、敵に間違えられるわよ。はい笑って。スマイル、スマイル。今日私達は英雄になるんでしょ?もっと気分あげてこ。ほらっ、えいえいおー、ってね」
ミナトと呼ばれる少年は、背後から聞こえる弱々しい勝鬨に、張り付いた笑みを浮かべる。
今日僕は死ぬ、皆んな死ぬ。死ぬために来たんだ。
ミナトは今度は口に出すことなく、心の中でそう呟いた。
眼前には平原が広がり、薄くのびた霧の切れ目から、人とは異なるシルエットを有した幾つもの影が怪しく揺らめくのが見える。
「六大魔公の一柱、鮮血公『金色のアルベラ』だっけ?な~んか、とりあえず思いついた言葉を詰め込んでみましたって感じの大層な二つ名ついてるけどさ、カッコいいとでも思ってるのかな。センス疑っちゃうよね~。しかも、こういうのって大抵評判倒れだもん。あっ、そうだ、王都から援軍も来るって話だよ。あの超有名な竜鱗級冒険者『翠の音」の3人もこっちに向かってるんだって。せっかく私達だけで大手柄をたてようっていうのさ、迷惑だよね。援軍に功績を横取りされないよう気をつけないと」
少女と呼んで差し支えない年頃の魔法詠唱者は、何かに追いたてられるように次から次へと言葉を吐き出していく。
ミナトを含め周囲の冒険者に彼女の言葉に応える者はなく、ただ狼の群れに囲まれた一匹の仔羊のように、もしくは自ら殉教を選んだ敬虔な信徒のように、平原を埋め尽くす敵が動き出すのを待っていた。
ミナト達の役割は、簡単に言えば時間稼ぎの捨て駒だ。
数ヶ月前、国境沿いの要塞都市カロに1人の老人が現れた。
都市と外界を隔てる巨大な鉄門の前にヨロヨロと歩み出たその老爺は、通行許可証を確かめようとする門番に向かい不気味な笑みを浮かべると、突如地面を震わすほどの大音でこう叫んだ。
「六大魔公が蘇った!!世界は再び混沌を友とし、大地は血で潤い、愚者の流した涙は大河となるだろう!!慟哭せよ、絶望せよ!!我が名は六大魔公が一柱、鮮血公『金色のアルベラ』。世界に滅びをもたらす名を、喝采にて迎えよ!!」
呪いの言葉は三重の城壁に守られた都市内部にまで響き渡り、同時に老人は糸の切れた操り人形のように膝から崩れ落ちると、どす黒い血を吐きそのまま事切れた。
数百年ジェベル王国の盾としてあらゆる外敵を退けてきた鉄壁の要塞都市カロが、金色の髪を持つ1人の少女が率いる悪魔の軍勢により陥落したとの報が王都に届いたのは、その三日後の事であった。
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基本毎日投稿する予定ですので、完結までお付き合い頂ければ幸いです。