氷の城
「ふっ、逃げずに来たことは褒めようじゃない」
「それはコチラの台詞です」
約束から1日経ち、ミナトとエランは丘の麓にいた。
目の前は暗幕で覆われ、頂上に位置する城の姿を視界に捉えることは出来ない。
「………ごめん、アルベラ、疑ってるわけじゃないんだけど本当に完成してるんだよね?結局ボクは一度も工事現場見れなかったし、縄張りにも参加できなかったんだけど………」
ミナトが隣に控えるアルベラに耳打ちをする。
言葉を額面通りに受け取れば臣下の仕事ぶりを心配する国王といった様子だが、その実、自ら設計し工事の陣頭指揮を取ろうとしていた城作りの機会を丸ごとアルベラに奪われ、結果だけを見ることとなった事への恨み節が言外に含まれていた。
「大丈夫、安心しなさい。だいたい、ミナトが最初に作る城が小さな田舎城じゃカッコつかないでしょ。その情熱はいずれシンギフ王国の王都に相応しい居城を作る時に取っておいて」
アルベラはそんなミナトの扱いは心得た物という具合に、適当に話を合わせる。
「うーん、確かに一夜城は実際には無かったって言われてるし、秀吉が初めて縄張りしたのは長浜城だからアルベラの言いたいことも分かるけど、それでも逸話に倣った築城は真偽が曖昧だからこその歴史的な浪漫が………」
「暗幕を取りなさい」
アルベラはブツブツと呟き続ける主を丁重に無視し、視界を塞ぐベールを取り払うよう命じる。
バッ
幕が上がり、視界が開ける
「シェーン………」
エランは短く感嘆の声を漏らすと、眼前に広がる信じられない光景に目を奪われる。
「凄い………氷の城だ」
従者のテオは、その幻想的な光景に身体を震わせる。
丘の上に聳え立つのは、光魔法で照らされ白く輝く氷の城だった。
最低限の基礎と枠組みは木材で出来ており、その上に3階建ての氷のブロックが積み上げられている。
表面は光を受け一層輝きを増すように細かな文様が彫られ、切り出された氷の結晶がキラキラとした光の粒をはらみ、真っ暗な世界を照らし出すような輝きを帯びている。
「エランさん、これがボクの………いえ、ボクの信頼する仲間が導き出してくれた答えです。負けを認めてくれますか?」
「美しい、見惚れるほどにね。軽口を叩く余裕もないじゃない。………だが勝負は俺の勝ちだよ、ミナト陛下。この城は美しい、まさに芸術だ。しかし、巧緻な芸術品であって城ではないねえ。敵が攻めてきた時、この城を盾に戦うことができるかい?無理だろう。城ってのは国を守るために戦う兵士達の最後の鎧なんだ。残念だけど、これは城ではないさ」
確かに丘のうえに聳え立つ一夜城は、いくつかの氷の塊を積み上げただけの建造物であり、防御施設としての体を成してはいない。
実戦に耐えうるものでない以上、城とは呼べないというエランの主張も最もであった。
「エランさんの仰ることは分かります。ボクも数ヶ月前までなら、同じことを言ったでしょう。でも今は違います」
「何が違うっていうんだい?」
「確かに城は国の象徴であり、国を愛し、国のために戦う者の心の拠り所です。しかし、ただ城があるだけでは国は守れません。人は石垣、人は城………この国に住む人こそが本当の城なんです」
「ごめん、ミナト。ちょっと何を言ってるか、分かんないんだけど」
澄んだ瞳で語り始めたミナトに対し、アルベラが眉をひそめる。
「人こそが………城?」
「そうです。ボクの仲間達はボクのためにこの城を1日で作ってくれました」
「作ったのアタシ一人だけどね」
「人と人とが結びつき、手を取り合うことで何倍、何十倍もの力を発揮する、この城はそんなシンギフ王国の象徴なんです」
「だから作ったのアタシ一人よ?」
「氷の城はいつか消え去ります。ですが、この国を守りたいという仲間達の熱い思いはいつまでも燃え盛り、王都を、シンギフ王国を守ってくれるでしょう。それがボクの考える城なんです」
「良い話にしようとしてるけど、ワンオペブラックデスマーチだったわよ?」
「………ふっ、負けたよ。俺の負けだ。まさか、この俺がそんな簡単な事を見落としていたなんてね。人を守るのは人だ。俺が目指している真の英雄ならば、きっと分かったはずじゃない。どうやら、今のままの俺じゃあ、シャルロッテ様にプロポーズは出来ないねえ。もう一度自分を見つめ直すとしよう。最後に、この城の名前を聞いてもいいかい?」
エランが問うとミナトは力強い笑みを浮かべる一方で、アルベラは憤懣やるかたない気持ちに整理をつけるように虚空を見上げていた。
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