決闘の刻
「へえっ、これが六大魔公、鮮血公『金色のアルベラ』か。噂には聞いていたがここまで美しいとはねえ。封印される前に一度ダンスの相手をして欲しかったじゃない」
エランは松明で照らされた偽アルベラをマジマジと見つめ、感嘆の声を漏らす。
「んっ、デュゼルの剣とかいきなり言い出したから、仲間みたいな雰囲気出しながら敵だっていう王道パターンかと思ったけど、恐らく単なるバカ。かなり濃厚なバカ。~フォアグラのバターソテー生クリームとコンデンスミルクを添えて~くらいの濃厚さ」
「聞くだけで胸焼けするやつ!!………しっ、リオ、エランさんに聞こえるよ。うーん、掴みどころのない人だけど、悪い人では無さそうな気がするよ。ただの勘だけどね」
「んっ、ミナトが言うなら間違いない。多分」
リオの力強い言葉に、ミナトは深く息を吸う。
「あの、エランさん。気を悪くされたら申し訳ないんですが、ひとつ質問しても良いですか?」
「ああ、なんでも聞いてくれ。おっと、レディーの前だ、愛の告白なら別の場所でお願いしたいけどねえ」
「どうしてあんな場所にいらっしゃったんですか?ラージバル伯爵領からかなり距離があるかと思うのですが………」
ミナトの問いに、エランの動きがピタリと止まり、従者であるテオが魔槍ヌゥンヌニゥルを固く握りしめる。
「なるほど、最もな疑問じゃない。確かにどんな言い訳をしようとも怪しいのは間違いないねえ。ジェベルの名門貴族の御曹司が他国の領内でほっつき歩いてるなんてのは」
「………いえ、疑っているわけではないんです。この辺りは数ヶ月前までジェベルの領土だったわけですし、シンギフ王国とジェベル王国は相互に通行手形なしでの行き来を認めています。軍隊を連れてきたならともかく、供回り一人と身軽な旅装で訪れたエランさんを怪しいとは思っていません。ただ、純粋に興味があって」
「興味?」
「はい、シンギフ王国は新興国で、王都であってもこの有様です。とてもジェベルの有力貴族であるエランさんを満足させるような物はないかと思うんですが………」
ミナトの語気が風に消え入りそうになるほど弱くなると、エランは冷えた空気を吹き飛ばすように大きく笑う。
「なんだい、そんな事に気にしてたのかい。どの国にも他には無い変えがたい魅力がある。それはシンギフ王国も同じだ。新興国らしい活気に満ちてて、少なくとも俺にとってはとても面白く魅力溢れる国さ。それに加えてリオちゃんみたいな美人も多いとくれば、一度訪れたくなるのは当然じゃない。ウチの領内にばら撒かれた怪文書も面白かったしねえ」
エランが例の文書について触れると、ミナトは顔を赤くして俯いた。
「確かに私は美人。モンドセレクションなら10年連続最高金賞貰えるくらいの造形美。私に会うため国境を越えたくなる気持ち、わかり味が深い。だけど本当にそれだけ?他にも理由があるはず」
リオはそう言うと、ガラス玉のような瞳でエランを見つめる。
「リオちゃんには隠し事は出来ないねえ、結婚したら最高に楽しそうじゃない。未来の花嫁に噓はつけないか………白状するよ。会いに来たんだ、シンギフ王国の国王にね。アルベラを封印したという本物の英雄って奴にね」
「ミナトに?ミナトならここに………」
ミナトは咄嗟にリオの口を塞ぎ、エランに更に問いかける。
「会ってどうされるつもりですか。王はあまり英雄という感じの人物ではないですし、アルベラを封印できたのも偶然によるところが大きいです。想像との違いに落胆されるかもしれないですよ」
「それならそれで構わないさ。会いたいから会う、英雄の行動は常に明快だ。俺もそうありたいと思ってる。それにただ王に会うためだけに来たわけじゃないからねえ」
「他の目的があるんですか?」
「そうさ、シンギフ王国の国王ミナト。俺は彼に決闘を申し込みに来たんだ。目的を果たすまでは帰れないじゃない」
エランは真っ白な手袋をミナトの足元に叩きつける。
ジェベル王国において、それは決闘の始まりを意味していた。
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