神託の勇者
「誰だ!!王の御前であるぞ!!」
無遠慮に会話に割って入ったリオに対し、王の近侍から怒声が浴びせられる。
「私はリオ、こっちがミナト」
リオは向けられた敵意を気にすることなく端的に告げると、王だけを見据える。
「ふむ、お主らはアルベラの手先となった人か、人の姿を借りた魔か………発言を許そう」
「逆」
「逆とはいったい」
「ミナトがアルベラの主人。ミナトは偉い。ミナトは凄い。たぶん王者の器って奴だと思う。そんな凄いミナトがアルベラを支配した。これは凄いこと。国とか与えるべき快挙」
誇らしげなリオの隣で、ミナトは目を白黒させる。
あまりに荒唐無稽で支離滅裂な発言に、豪胆な王も眉間に皺を寄せ思案の沼に身を浸し、近侍する廷臣達は言葉を紡ぐことが出来ずにいる。
「その少年がアルベラの主だというのか………六大魔公アルベラよ、どうやら貴公も冗談は不得手と見える。それとも見え透いた詐略により我々を謀り、物笑いの種にする気か。これ以上、我々を愚弄するならば、代価はその身を以って払うこととなるが」
「口だけは勇ましいわね、ジグムンド3世。満員の観客の前では、強い王を演じなければいけないと言うわけかしら?ふふっ、お互い苦労するわね。でも残念、答えは否よ。ミナトがワタシの主であること、それは是にして真実。昨日の戦いで、アルベラは『神託の勇者』ミナトの軍門に降ったの」
大陸中にその名を轟かせる大悪魔より『神託の勇者』という言葉が飛び出すや否や、貝のように静まり返っていた群衆が一斉にざわめきだす。
場を収めようと王が再び口を開こうとした時、祭服に身を包んだ神官が押し退け声を上げる。
「不敬なるぞ!!『神託の勇者』とは教皇庁よりその名を許されし、神の奇跡を賜った選ばれし存在。そのような童、我が教皇庁は認めてはおらぬ!!神を愚弄するのもいい加減にしろ!!」
神官の金切り声に王が眉間の皺を一層深くし、居並ぶ廷臣たちも眉を顰める。
「失礼した、少年………いやミナト殿。貴公がもしアルベラを支配下に置いているのであれば、我らの前で証明してはくれまいか。貴公が『神託の勇者』であるならば、アルベラの野望は打ち砕かれ、我が国は救われよう」
「えっ、あっ、それは………」
ミナトは助けを求めるように横目でリオを見ると、リオは任せろと言わんばかりに胸を張り、大きく息を吸い込んだ。
「んっ、今から神託の勇者ミナトが神から授かった奇跡で、六大魔公で、鮮血公で、金色ギランギランなアルベラを屈服させる。超ハイパー屈服タイム。歴史が変わる瞬間。勇者王の誕生。伝説とかの始まり。目を見開いて、刮目すること。一度見たら友達10人に伝えないと不幸が起こるから、死ぬ気で拡散すること。じゃあ、ミナト………………はいっ、どうぞ」
「それだけ!?」
雑過ぎる前振りに動揺するミナト。
一方でリオは、やってやったぜという面持ちで腕組みをしている。
「なぁに、ここからは丸投げなの?まったく適当もいいところね。いいわ、ミナト。ワタシ達のためにこれだけの大観衆が集まったんですもの。たっぷりと見せつけてあげましょ?」
アルベラがミナトに近づき、唇を近づける。
(臣従の証って、キスのこと!?)
突然のことに狼狽えるミナトが視線を逸らすと、視界の端に王の後方で謎のポーズを取っているリオの姿がうつる。
(リオ、いったい何を………あれは頭を触れって言ってるの?アルベラの頭を??ボクがアルベラの頭に手を置けばいいのか!!)
ジェスチャーで必死にアルベラの頭に手を置くよう伝えるリオ。
その意を汲み取り、ミナトは今にも触れようとするアルベラの唇をグイっと押し返すと、突然のことに不満気な表情を浮かべるアルベラの頭にポンと手を置く。
イチかバチかの賭け………ミナトにとって、永遠にも思える時間が過ぎてゆく。
(これにどういう意味があるの、リオ!!アルベラも困ってるし、これじゃ、なんの証明にもならない…………んっ?)
アルベラの頭に置いた右手が微かに震え出す。
「何が起こっているんだ、悪魔の顔から余裕が消えたぞ?」
「俺は知ってるぞ、あれは魔力を流し込んでいるんだ!!アルベラの頭蓋を破裂させ、脳髄をぶちまける気だ!!」
口々に無責任な予想を並べたてる群衆。
膨れ上がる喧騒のなか、ミナトが目にしたのは聖イトノコボルグを高らかに掲げるリオの姿だった。
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基本毎日投稿する予定ですので、完結までお付き合い頂ければ幸いです。
聖イトノコボルグを何とかAIさんに描写してもらおうと頑張りましたがダメでした…