ブラック求人にお気をつけを
「それだけじゃ弱いわね。更にドカンと町中、いえ国中の噂になるような視覚に訴えかける話題性抜群な仕掛けが欲しいわ」
ミナトの熱気にエルムがいち早く反応し、鼻息荒く自らの構想を熱弁する。
「んっ、そうと決まれば早速ボクの考えた最強の求人票を作るべき」
リオはどこから取り出したのか羊皮紙を卓上に広げ、他にも怪しげな道具をズラッと並べる。
「まず大事なのはお金だよね。出稼ぎ感覚で来る人も多いだろうし、ここは思い切って1日銀貨3枚くらいで………」
ジェベル王国に流通している銀貨は一枚で主要な都市の安宿に泊まることが出来る程度の価値を有している。覇王都NOBUNAGAのような規模的には田舎町………いや、辺境の村に過ぎない規模の宿場町での仕事と考えれば、銀貨一枚ですら過大といえる。
「んっ、初手退屈。あくび必死」
「どうして!?」
「細かな文字ばっかの求人情報なんて誰も見ない。キャッチーでウェッティーでアリエッティーな魂のワンフレーズにオールベットすべき」
「途中変な単語混ざってなかった!?」
「リオ様の仰ることにも一理あります。想定内の賃金では目を惹きません。しかし、法外な賃金では自分自身の首を絞めることになります」
アルシェは法外な賃金という部分に力を込める。
現代社会とは異なりこの世界には労働基準法はもちろん、基本的人権すらもない。ゆえに労働市場においては常に雇い手が圧倒的に強く、上役の機嫌を損ねれば賃金の支払いがないことすら珍しくなく、それを掣肘する者などいるはずもない。
強きものはより強く、弱きものはより弱く、それが弱肉強食のこの異世界における至極当然の摂理なのだ。
ミナトは転生前に身に付けた現代人的な価値観により弱者側に肩入れすることが多く、それは美点であったが、この世界において商売をするという観点からすると、際限なく低賃金の労働力を投入可能な存在に一飲みされかねない脆弱を抱えていた。
「ミナト様がお優しいのは知っております。しかし、適正な賃金でなければせっかく得られた金貨もすぐに消え果ててしまうでしょう。王国の発展を考えるならば、あまり無茶な設定はするべきではありません」
「でも、いったいどうすれば………」
「こうすればいい」
リオがサラサラと羊皮紙に文言を書き込んでいく。
紙面に踊るのは『高給保証』『活躍次第で1日金貨3枚!?』『私はこれで建国しました』といった怪しげな文言の数々。
そこには文字だけでなく、金貨で埋め尽くされた部屋で両脇に目線を黒塗りにした水着美少女を侍らせた少年の姿が鮮明に描き出されている。
「いや、これ典型的な詐欺の手口だよね!?っていうか、これボクとアルシェとリオじゃない!?なんなのこの技術、いつ撮ってたの!!」
「先日リオ様が強引に………人の持つ魂の形を紙に転写する神の奇跡だと仰っていたので、いつもの冗談かと思い遊び半分でお付き合いしたのですが、こんな使われ方を………ミナト様、そんな食い入るように見つめないでください、紙に写った姿とは言っても恥ずかしいので」
「あっ、ゴメン………リオ、アルシェもこう言ってるし、止めておかない?色々と法的にギリギリな雰囲気漂ってるし………」
現代法に照らし合わせればほぼ真っ黒な求人情報を見つめると、どうしても自分の隣にいる二人の豊満な胸元に目が釘付けとなる。
それは写真というものの存在を知らないこの世界の住人であれば、尚更だろう。王を含めた国の中枢を担う3人の写真をこんな求人に気軽に使っていいのか、そもそも写真の技術を軽々しく表に出していいのか、誰も水着に疑問を抱かないのか等々、疑問は雨後の筍の如く出てくるが、確かに視線を引き付けるための方法としてはこの上ない手法と言える。
「んっ、ミナト細かい。こういうのは大体合ってればオールOK。最悪1ミリでも掠ってればセーフなとこある」
「さっきから発想が完璧に詐欺師サイドじゃない!?」
「ミナト様、この世は所詮弱肉強食、食うか食われるか………騙される方が悪いのです」
「アルシェまで開き直った!!」
「ふふん、面白いわね。ここに目に留まっただけで働きたくなるような機智に富んだフレーズを入れ込むわけね。腕が鳴るじゃない」
「任せろ任せろ任せろ、一人ぼっちの時にイマジナリークーちゃんと二人で言葉遊びしてたから大得意だぞ!!」
「う~ん、いつでも寝られるってのが一番とこだから、それだけは書いといて~」
お題を与えられ目を爛々と輝かせる仲間たちの様子を見て、ミナトはこれから始まるであろう大喜利大会を思い途方に暮れた。
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