唐突なミッション
「そう、ただでさえ忙しい私達が更に汗をかく必要なんてないわ。噂を働かせばいいの」
教師が出来の悪い生徒に語りかける様を思わせる居丈高な口調で、エルムが気持ちよく話を続ける。
「んっ、メレンゲ並みの内容量の少なさ、具体性ゼロ。せめてマカロンくらいの中身が欲しいところ」
「失礼ね、マカロンどころか羊羹くらい中身ギッチギチよ!!」
「エルム、噂を働かせるって、どうするつもり?」
ミナトの頭上にクエスチョンマークが浮かぶ。
ミナトは優秀な冒険者であり、現代日本での知識もありこの世界の住人よりも柔軟な思考を有していたが、根が真面目な現実主義者であり、幾多の依頼をこなすなかでその傾向は一層顕著なものとなっていた。ゆえに、交易の成功という事例を目の当たりにしてもなお、噂を働かせるといった不確実で投機性の高い戦略を理解しきれないでいるのだ。
「あの都市長の手法をそのまま使うの。いま王都は交易の中継点になって、沢山の商人が行き来してるでしょ。この商人達に『シンギフ王国じゃ働き手が足りないから、仕事は幾らでもあるし儲かるぞ』って噂を流させるのよ」
「なるほど。商人なら王国内に満遍なく散らばるから、広く人を集めるにはうってつけだね」
「確かに慧眼です。ゼダーン都市長の交易に関する戦略については半信半疑でしたが、毎日これだけの商人が来ている以上、その手腕を認めざるを得ません。同様の手法を用いれば、人を集めることも可能でしょう」
アルシェが認めるように、ロイエの策は当人の楽観的な予想すら上回る勢いで功を奏している。
その裏には交易都市ゼダーンが、そして都市長であるロイエ自身が長年積み重ねた信頼やマイヤーの献身的な働きもあるだろうが、作戦そのものの有用性は疑う余地はなかった。
「うーん、なんか私みたいにすぐ地元を離れられるくらい暇してる人達って、ちょっと問題ありそうな気がするけど、呼んじゃって大丈夫〜??」
天幕の隅でとぐろを巻き午睡をしていたルーナが、目をこすりながら疑問を口にする。
「んっ、半グレばっか集まる予感」
「それは………どんな人材を求めてるか、明確に示すことで対策できるわ。私達にいま一番必要なのは、調理や給仕が出来る若い女性。シンギフ王国が若い女を求めてるって噂が広がれば、出稼ぎに行って来いって親がバンバン送り出してくるはずよ」
「倫理観にかける異世界毒親にコンプラに問題がありそうなセクハラ王国の奇跡のコラボが実現しそうな謳い文句」
「確かにちょっと言い方を考える必要はあるけど、必要な人物像を明示するのは重要なことだよ。求人情報を出すと思えば良いんだ。ギルドの依頼書には、報酬と目的、どんな冒険者を求めてるかが書いてあるよね。それと同じなんだ。王都を訪れる商人に求人情報を書いた紙を渡して、それを行く先々でばら撒いて貰う。ただじゃ手伝ってくれないだろうから、協力してくれる人には一杯奢るくらいはしたほうがいいかな」
ミナトは自分自身の発想に興奮するようにドンドンと早口になっていく。
「もちろん、それだけじゃインパクトが弱いから、求人自体も噂になるような魅力的な内容に仕立て上げる。これならシンギフ王国がいま求めてる人材にリーチできるはずだ。早速ターゲット層へのメッセージをブラッシュアップして、採用ブランディングを高めてマッチング力を強化しよう!!コンバーション率を高めれば、コミュニケーションコストも抑えられるし、ボク達の間で採用者のペルソナをインナーブランディングしていこう!!」
「ミナトが胡散臭いビジネス用語使い出した。ツーブロックにして日サロに行くまで秒読み」
ミナトの髪をかき上げながらツーブロックになった場合の髪型をイメージするリオを尻目に、ミナトは心を熱く燃え上がらせる。
(そうだ、ボクが持ってる現代日本の知識を活かせばいいんだ。働いたことはないけど、テレビとかネットで求人のCMは沢山見てきた。SNSなんかでも、どんな広告をうてば目立つのか、ノウハウを勉強してきたも同然だ。これまで内政はアルベラに任せきりでダメダメだったけど、得意分野ならきっと誰もがアッと言うような成果を残せるはず!!シンギフ王国で暮らす国民のためにも、ボクの名誉のためにも、このミッションをやり遂げてみせる!!)
一人決意を新たにするミナトを、仲間たちは不安そうな面持ちで遠巻きに見つめていた。
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基本毎日投稿する予定ですので、完結までお付き合い頂ければ幸いです。




