秘めたる恋心
「レティ、勘違いしてない!?好きなのってバイ………マイヤーさんじゃない??ロイエさんって、あの恰幅の良い都市長だよ!!」
ミナトはようやく繋がった記憶の糸を辿り、ロイエの容貌を脳内に描き出す。
禿げ上がった頭部、アルコールで真っ赤に染め上げられた顔、積み上げられたタイヤのように何段にも脂肪のついた腹部。
顔の造形はけして悪くはないものの、少なくとも今現在のロイエはおよそレティのような少女が好むような容姿とは思えず、その点、鋭い刃物のような美しさを持ったマイヤーの方が遥かに恋愛対象として適任ではないかと感じられる。
「私がロイエ様を間違えるわけないでしょ。一目見たときから気になってたんだけど、お尻を叩かれた時に理解したの。私はこの人に恋してるんだなって。あの余裕のある身体、値踏みするようなネットリとした視線、幾多の修羅場を潜ってきた人だけが持つ度胸………勝手に荷馬扱いする強引さ、隠そうともしない強烈な野心と自負。私の頭の中はずーっとロイエ様で一杯」
レティは地面を激しく蹄で掘り返しながら、熱に浮かされたように一息でまくしたてる。
「本気なの!?だってケンカっぽい感じになってたし、マイヤーさん相手に良い感じの雰囲気出してたよね!!」
ミナトは再び記憶の蓋をこじ開ける。
(二人のやり取りはどう考えても犬猿の仲にしか見えなかった………けど恋愛ってそういうものなのかな。ううっ、経験がないから乙女心が分からない………)
「もう、言わないでよ。突然のことに舞い上がっちゃってあんな反応しか出来なくて、自分でも恥ずかしいんだから。でも、ロイエ様なら私みたいな小娘の浅知恵なんて全部お見通しだと思うけどね。愛の告白をしたら、きっと『金にならねえ御託は聞き飽きた、さっさとこっちへ来やがれってんだ』って乱暴に身体を求められて………………キャーッ!!!!あっ、ちなみにマイヤーさんはロイエ様の右腕なわけだし、失礼な態度は取っちゃダメだからね。将を射んと欲すれば先ず馬を射よって言うんだから」
沈黙。
ミナトはレティの溢れんばかりの言葉の洪水に圧倒され、バイムトは石化したかのように呼吸すら忘れ、リオはロイエの顔を思い出せないのか180度ほど首をぐるりと回し記憶を辿ろうとしている。
「あ、あのさ、一目惚れしたってのは良く分かったんだけど、ほら、ロイエさんとは年も違えば種族も違うし、例えば同じことブレニムの民から相手を選ぶってのも悪くないかなって思うなぁ。特に小さい頃から一緒にいたりすると、気心もしれてるだろうし、将来的にもきっと頼りになるかなって………」
「それってバイムトみたいな?」
「んっ、どストレート」
悪意ない問いにミナトは一瞬怯むが、レティの口から自分の名前が発せられたバイムトは精神的石化が僅かに溶けたのか耳をそばだてている。
「ないない、バイムトはあくまで幼馴染だし、今では頼りになる仲間だもの。自らに課せられた責務に私情を持ち込むなんて事するわけないじゃない。だいたい私達が恋人になったら、恋愛感情のもつれがブレニムの民全体に悪影響を与えかもしれないでしょ。そんな愚かな選択するわけないし、何より真面目なバイムトは絶対そういう事を許さない。もし私が好きだって言ったとしても『何を言っている、将来の族長としての自覚がないのか!!』って叱られちゃうんだから。ねっ??………ほら、想像するだけ怒り心頭って感じでしょ」
レティは無邪気に笑い、バイムトは再び物言わぬ貝となった。
「ミナトのナイスアシストで丸く収まった的な?」
「いや、自分で言ってて悲しくなるけど、ナイスな要素ないよね!?」
「とにかく、大事な事に気づかせてくれてありがとう、ミナト。今すぐロイエ様に告白する決心はつかないけど、いつか振り向いて貰えるよう頑張ってみる。とりあえず、当面は交易の成功からだよね!!約束を守れる女だってことを見せないと!!!よーし、頑張るぞ〜!!」
レティは意気揚々と、バイムトは数十年間油を差していないブリキのオモチャのようなぎこちなさで、天幕を後にする。
ミナトはそんな二人の姿を無言で見送ることしか出来なかった。
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