レティの覚悟
「夜伽って………皆にけしかけられたんだよね。ゴメンよ、嫌な思いさせちゃって。話せば長くなるんだけど、ボクがハーレムを作るために国を作ったと勘違いされてて、順番に、その………そういう係を回していこうって、おふざけ的な事を言ってるんだ。だから、新しく来たレティに意地悪をしてるとかそういうんじゃなくて、認識の相違から来るもので………………ううっ、説明が難しいな。とにかく、無理しないで大丈夫だから」
「あははっ、心配しないで。誰かに言われたから来たわけじゃなくて、私の意志で来ただけだから」
ミナトが苦慮しながらも複雑怪奇な現状についてかいつまんで伝えると、レティはあっけらかんとした口調でそう返す。
「そっか、なら良かっ………えっ!!??」
「私は族長の娘でしょ?形としてはミナトは盟主だけど、実質的に私達ブレニムの民の王様に対して、下手な子を送り出すわけにはいかないじゃない」
「え、あぁ、うん………誰かは絶対来る前提なんだ!?」
「それは………当然よね?」
レティは隣で凄まじい形相をしているバイムトに問いかけると、バイムトはレティの幼馴染の顔から、常に隣で彼女の補佐をする忠実な部下の顔となり「無論、当然のこと」と短く答えた。
「人には少しだけ馴染みのない風習かもしれないけど、ブレニムの民にとってはより強く優秀な子を産むため、他部族の有力者の子種を貰うことは珍しい話じゃないの。ミナトは強いし、何よりもシンギフ王国の王様でしょ。子種を貰う相手としてはこれ以上ないから」
『子種』というド直球すぎる単語がミナトの脳内を駆け巡る。
「いや、でも、そう言うのは………そっ、そうだ、だいたいケンタウロスと人で子どもは出来ないんじゃないかな?」
ミナトはなんとか流れを変えるべく、誰もが当然思い浮かべるだろう疑問を口にした。
ケンタウロスは亜人として数えられるが、アルシェを例に挙げるまでもなく人と子を為すことができる獣人とは異なり、身体の半分が獣であることから一般的には人との間に子は出来ないと考えられている。
実際、冒険者ギルドのようなはぐれ者が集まる場においても、獣人と人のハーフは見かけることがあっても、ケンタウロスやベスティアのような獣脚種と人のハーフの存在は噂にすらのぼることはなかった。
しかし、ミナトは重大なことを見落としていた。
そもそもケンタウロス自体が都市部に現れることが珍しいため、人と獣脚種間で子は出来ないという説はケンタウロスに会ったこともない人間がイメージから導き出した、なんの根拠もない仮説に過ぎないのである。
「安心して、過去に人とブレニムの民の間で子どもが出来た事例はたくさんあるから。子どもの身体的特徴は私達を引き継ぐんだけど、純血種よりむしろ身体も強くて賢い子になるって話もあるくらい。ミナトの子だもの、きっと大物になる。楽しみだな」
レティはミナトが漠然と信じていた通説を一瞬で打ち砕くと、恍惚とした表情でまだ何もいないお腹をさする。
「んっ、ラブコメの波動を感じる」
背後から突然聞こえた声にミナトはビクリと身体を硬直させた。
振り返るとリオが天幕の布にミノムシのようにくるまり、クレープ状になった布から顔だけを出しジッとこちらを見つめている。
「リオ、いつの間に!?いや、こんなのラブでもコメでもないからね!!どちらかと言うとホラーだよ!!」
「あっ、ちょうど良かった。身内のバイムトだけじゃ証人として弱いと思ってたの。夜遅くに申し訳ないけど、これからするから見てって」
レティはまるで友人に食事を勧めるような気軽さで、リオにこれから始まる自らの性行為の立会人となることを求めた。
「申し訳なく思う所がファンキーすぎる。このままだとミナトが濃厚すぎる脱童帝を果たすことになって、性癖がエグいことになってしまう………………んっ、それはそれで良いような気がしてきた。むしろ、アリ寄りのアリ?」
「ナシ寄りのナシだよ!!純度100%混じり気無しの!!」
朗らかな笑顔を浮かべるレティ、鬼瓦のような剣幕のバイムト、ひたすら無表情なリオ、額に大量の脂汗が伝うミナト。
それぞれの思惑により小さな天幕は極限なまでのカオス空間に包まれていた。
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