二人の仲間
「それじゃ、取り決めはこれくらいでいいかしら」
アルベラは御前会議により定められた事項を書面に書き起こし、マームードとザテトラークに示す。
亜人は全員が文字を読めるわけではないが、それでも族長に近い血筋であれば将来族長を補佐することを想定し、読み書きは一通り仕込まれていることが多い。
ブレニムの民のなかではマームードはもちろん、族長を継ぐ立場にあるレティ、そしてその右腕となるバイムトも人間と同等の知識を有しており、それは王を名乗るザテトラークも同様であった。
取り決めの内容は主にシンギフ王国とブレニムの民、ベスティア間の交易及び人的交流についてである。
両部族から週替わりで王都に10名の若者を招き、力仕事をしてもらう。報酬として、ゼダーンから取り寄せた良質な酒や食事を提供する。
王都の労働力不足を解消しつつ、人と亜人間の交流を深めることを目的としたミナトのアイデアだ。
(人も亜人も知らないものを畏れ、小さな恐怖は際限なく膨らみ、やがて対立や排斥に繋がる。それを防ぐには、とにかく両者間で交流を持たないとダメだ。まだ人を両部族に送り込むことは難しいけど、逆ならボク達もいるし、きっと上手くいくはずだ………いや、成功させてみせる!!)
ミナトは胸の奥底で一人闘志をみなぎらせる。
なお、この交流についての責任者はアルベラであるものの、実際の指導や差配はアルシェに任せることとなった。
(フォルティノ街道が復活すれば、ゼダーンとカラムーンの中継点である王都にも多くの商人が立ち寄るようになるはずだ。ロイエさんから物資は貰えてもそれを提供する場所や人、接客のノウハウがないとせっかくのチャンスをみすみす逃すことになりかねない。その点、アルシェは冒険者ギルドで商人より遥かに気性の荒い冒険者を相手にしてきたし、ベテラン給仕として指導経験も十分だからね)
街道の宿場町となれば、外貨獲得が期待できる。
新たな産業が興れば、新たな人が集まる。
集まった人々にとって亜人と共存することが当然となれば、王都から亜人と人間の共存という文化を輸出することも可能となる。
ミナトようやく繋がり始めた理想への細く頼りない一本の糸を手繰るように、頭の中で国家の将来像をデザインしていく。
それは非常に複雑で困難な作業だが、ミナトにとってこれ以上になくやり甲斐に満ちたものであった。
「名残惜しいけど、そろそろ時間みたい。まだお痛しようとする若いのもいるかもしれないから、ザテはしばらく王都には来れないけど、寂しかったらすぐに我が君のもとまで駆け付けるわん」
思案の海に深く身を浸していたミナトを現実に引き戻すようにベスティアの王が一方的に捲し立てると、トドメと言わんばかりに特大の投げキッスをし、圧の強すぎるウインクを繰り出す。
「ザテ………うんっ、力を借りたくなったら連絡するよ。でも、くれぐれも無理はしないで困ったら気軽に助けを求めて。キミの安全はそのまま街道の安全に繋がるんだから」
「では我らブレニムの民も帰るとしよう。ただその前に陛下、ひとつ提案があるのだが」
「なんでも言ってください」
「連絡役としてレティとバイムトを王都に常駐させても構わないだろうか」
「レティとバイムトを?」
マームードはミナトの間の抜けた鸚鵡返しにコクリと頷く。
「若い者の中には粗忽者もいる。そういった者への目付け役が必要だ。しかし、年寄り連中を送っては、せっかくのミナト陛下の理念を台無しにする可能性がある。その点、若く柔軟で人への偏見が少ない二人ならば卒なくこなすだろう」
「その案にはワタシも賛成よ、我が君。ベスティアには適任な人材がいないから、ウチの子達の面倒も二人に見て貰えると助かるわん。人と亜人だけでなく、ベスティアとブレニムの民の協調も進めて行かないとだしね」
マームードはザテトラークのウインクを丁重に無視し、「どうだろうか」とミナトに重ねて問う。
「素晴らしい案だと思います。ボクとしてもレティとバイムトの二人に居て貰えると心強いです。だけど、二人は仲間と離れての王都暮らしは大丈夫なの?」
「無論、問題ない」
「広い世界が見たかったし、むしろ大歓迎。よろしくね、ミナト陛下」
「ミナトでいいよ。改めてよろしくね、二人とも」
ミナトは頼もしい二人の新たな仲間にそう言い、優しく微笑みかけた。
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