亜人の盟主
「なによ、馬人間の次は虎人間??なんなの、この国を動物園にでもするつもりなの!?」
「んっ、親の声より良く聞くヘイトスピーチ」
「もっと親の声聞きなさい。それに虎じゃなくて獅子でしょ、シンギフ王国の重臣の知識こそどうなってるのよ」
レティとザテトラークを伴い王都に戻った一行を、エルムが甲高い罵声と共に出迎える。
「なんだなんだなんだ、もしかしてベスティアか?珍しいぞ、噂には聞いてたけど本当にいたんだな」
「貴方の方がよっぽど実在が疑わしいけどね。それにしても、随分注目されてるじゃない」
アルベラは櫓の上に集まる人々を視界に収める。
国境沿いに住んでいるとはいえ、人前にほとんど姿を現すことのないベスティアを見るのは初めてなのか、大人達はザテトラークが動くたびに歓声をあげ、子ども達はキャッキャとはしゃぎ回っている。
「ふむ、恐怖より好奇が勝つか。それに加えてこの多種多様な面々………面白い国だ、流石我が君が治めているだけあるわん」
「慣れの恐ろしさ。正常性バイアス」
「ははっ、みんな異種族は見慣れてるからね。だけど一度本拠地に戻らなくて本当に良かったの?」
「もうっ、意地悪っ!!愛する人のおウチを見るチャンスだもの、ついてくに決まってるじゃない、だって私達の愛の巣になるかもしれないんだからっ!!それに、一族の主だった者には使いを送ってある。粗暴であるが、最低限の理はわきまえている者達だ、無難な人選をするだろう」
「あぁ、うん………ありがとう」
ミナトは亜人の長と恋する乙女の間を亜音速で反復横跳びするザテトラークに曖昧な笑みを返し、自らの居城とも言える天幕に入る。
「おかえりなさいませ、ミナト様。皆さんお待ちかねです」
アルシェはミナトの上着を脱がすと服についた埃を払い、真新しい外套を着せる。
天幕内には重臣だけではなく、マームードとバイムトも集まっており、皆一様にミナトの言葉を待っていた。
「ありがとう。マームードさんも不在の間、王都を守って下さって心から感謝します」
「礼には及ばない。我らブレニムの民はシンギフ王国と共に歩むと決めたのだ。ならば、王都を守護することは自らの家を守ることも同じ。これからも存分に我らの力を使ってくれ。………しかし、陛下がザテトラークを伴い無事帰還したということは、ベスティアを打ち破り傘下に収めたというバイムトの報告に誤りはなかったということだな」
「久しいな、マームード。陛下の御前でなければその喉に嚙み千切っているところだが、我らベスティアもシンギフ王国に降った身。愛しの我が君のためにも、今後はお互い仲良くしましょ」
「ん!?あ、あぁ………よろしく頼む」
「色々言いたいことがあるのは分かるけど、時間がないわ。今後の国政について簡単なところだけ共有するから聞いて貰えるかしら」
アルベラの発言にミナトを含め一同が一斉に姿勢を正す。
「まずブレニムの民とベスティアの待遇について。これはミナトの意向もあるんだけど、当面両部族は独立した国として、シンギフ王国の同盟国として活動してもらうわ」
「あらっ、私は身も心も我が君に捧げたい………そのうえでビシバシと支配されたいんだけど、ダメなのかしらん」
「ダメよ。王都の様子とこの天幕を見れば分かるでしょ?シンギフ王国は領土こそ広いけど、まだ領内にどれだけの人や亜人が住んでいるかも把握できてなければ、ミナトが直接掌握できてる人間なんて村に等しいレベルでしかないわ。行政機構も指揮系統も整ってない段階で、数千はいる両部族を丸抱えするなんて不可能なの」
「なるほど、事情は理解した。しかし、我らブレニムの民もベスティアも明確な上下関係のもと成り立っている部族だ。同盟国という曖昧な状況は、必ずしも利益をもたらすとは思えない。内実はともかく、王国に組み入れて貰った方が、部族内の統制も取りやすい」
「すいません、ボクの我儘のせいで………ですが、ボクは支配や主従ではなく、友好や協同で一緒に国を盛り立てていって欲しいんです。同盟国が難しいなら、シンギフ王国を盟主とした連合国という形ではダメでしょうか」
「盟主か………いずれ王国に正式に従属する過程ということであれば」
「ベスティアは我が君の頼みならなんでもウェルカムよ」
「決まりね。ブレニムの民もベスティアも、これまで通り二人が統治して、独自の判断で行動して。何をするにしてもシンギフ王国の指示を待つ必要はないわ」
「お願いしたいことがある場合は、使いを送ります。頼りない国王だとは思いますが、盟主となった以上はブレニムの民もベスティアも、これまで以上に良い国になるよう力を尽くします」
ミナトの力強い言葉にマームードとザテトラークは大きく首を縦に振り、共にミナトの前に跪いた。
それはブレニムの民とベスティア、国境沿いに位置する二つの強大な部族がシンギフ王国の傘下に入ったことを意味していた。
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