過去は金貨よりも軽く
「しかし、アタシが言うのもなんだけど、この前まで争ってた亜人をここまで信頼していいの?シンギフ王国だって帝国にとってみれば怪しげな新興国にすぎないでしょ」
「そんな事いうまでもねえだろ、新興国だろうが亜人だろうが、使って儲けられりゃ誰だっていいんだよ。だいたい人同士だってしょっちゅうドンパチやってるが、裏では笑顔で手を握って荷を流し合ってるじゃねえか。どんな裏があろうが、金が欲しい、物が欲しいって根っこの部分で信頼できりゃ、なんの問題もねえよ。だいたい俺は商人だ。金になるなら人だろうが亜人だろうが魔物だろうが悪魔だろうが、誰とだって手を結ぶぜ」
ロイエのあけっぴろげな物言いにミナトは苦笑する。
一代で子爵の地位を得たこの都市長にとって、人と亜人の争いの過去や歴史、恨みや憎しみなどの感情は金貨よりも随分軽いものであるのだろう。
「では、こちらがこの度の契約の諸条件をまとめた証書となります。シンギフ王国とベスティア、ブレニムの民、そしてゼダーン都市長の四者間合意の証として各々保管願います」
ミナトはマイヤーから手渡された証書に目を通すと、アルベラに預ける。
「内容に問題なさそうね。それじゃあ、早速明日から取り掛かりましょう」
「とりあえずは馬車100台から初めるぞ、そのつもりで人足を寄こしてくれ。こういうのは最初が肝心だ。軌道に乗っちまえばどんな輩が来ても問題ねえが、最初くらいはお嬢ちゃんみてえな見てくれの良い奴を頼むぜ」
「最初からそんなに!?私みたいな人にもウケる容姿をしてる子は多くはないけど、人当たりが良い仲間を派遣できるよう族長に掛け合ってみる。そっちも相手が亜人だからって馬鹿にした態度をしないよう、商人に言い聞かせといてよ。ブレニムの民は皆が皆、私みたいに気が長いわけじゃないんだから」
レティはチラチラとマイヤーの様子を窺いながら釘を刺す。
「お前さんが気が長いねえ………まっ、商人共が全員顔に痣つくってんのも間抜けな話だ、口には気を付けるよう言っておくぜ」
「我も一度居住地に戻り適当な者を見繕おう。ベスティアと付き合う上で気を付けるべき点についても伝えておく。くれぐれも仕事の最中に酒の差し入れはしないことだ、一度飲みだすと泥酔するまで止まらんぞ」
「どこかのお貴族様と一緒ですね、肝に銘じます」
マイヤーが代わりに応えると、ザテトラークは声を出して笑い、ロイエは短く舌打ちをした。
「あの、ロイエさん、皇帝陛下との会談の話なんですが………」
「ちっ、覚えてやがったか。分かってるよ、一代子爵ロイエ大都市長様が一度約束したことだ、死ぬ気で捻じ込んでやるよ」
「いえ、それなんですが、もう少し待って貰っていいですか。皇帝陛下と話したいことは山ほどあります。でも今のボクじゃ、何が一番大事なのかまだぼんやりしていて、勿体ない気がして………」
「構わねえぜ、俺としても金をたんまり稼いでからの方が、帝都の守銭奴共相手に工作しやすいからな」
「それにこの交易が上手く行けば、帝国にとってもミナトの存在は無視できないものになるしね」
「まっ、そういうこった。要するに、俺らの未来は全部この交易にかかってるってわけだ。失敗したら皆まとめて地獄行きだ、てめえ自身の利益のために必死にやってくれよ」
ミナトはロイエの言葉に力強く一度首を縦に振ると、固い握手を交わしゼダーンを後にした。
「都市長、流石に博打が過ぎませんか。もし一人でもベスティアが商人を襲えば御破算どころか身の破滅です」
「いいじゃねえか、俺もお前も元は道端に転がってただ死ぬのを待ってた浮浪児だ。一文無しの根無し草が生きていくにゃ、てめえの命くらい掛け金に上乗せしねえと儲けもでねえよ」
「それだけですか?随分彼らに肩入れしているようにお見受けしますが」
マイヤーがロイエのよく回る口を一層滑らかにすべく、空になった盃に葡萄酒を並々と注ぐ。
「それだけだ。まっ、どうせ賭けるなら、しみったれた爺共より青くせえガキの方がマシではあるがな」
「同感です」
マイヤーはロイエが盃に口をつける前に、瓶に残った酒を直接グイと飲み干した。
面白かった、これからも読みたい、AI先生による絵が可愛いと思った方は是非、☆評価、ブックマーク、感想等をお願いいたします!!
基本毎日投稿する予定ですので、完結までお付き合い頂ければ幸いです。




