通過儀礼
「ベスティアの戦士達よ、聞け!!我に取って代わりたいのであれば、愚にもつかん御託を並べる前にこの首をへし折れ!!ベスティアの王ザテトラークは、人の王ミナトに敗北を喫した。約した通り、我らベスティアはミナト王のもとに降る。異議あらばいつでもこの首を狙え。このように遊んでやろう、対価として命を貰い受けるがな!!」
ザテトラークは四肢をゆっくりと動かし、ベスティアの戦士達の前を悠然と歩む。
先ほどまで立ち込めていた不穏な雰囲気は霧散し、声を上げていた者達は恐怖に震え上がっている。
「ふんっ、手負いの王という絶好の獲物相手に挑む気概もないとは、先が思いやられる」
「デボラさん、勘違いかもしれないんですが、ボクと戦ってた時より数倍強くないですか??」
ミナトは駆け寄ってきたデボラに疑問をぶつける。
「手加減してた………って様子じゃねえな。さっきのが本来の動きだってんなら、オレでもかなり本気でやらねえと危ねえぞ」
デボラは熱のこもった視線をザテトラークに向ける。
しかし、ザテトラークは自らに向けられる様々な感情の入り混じった視線を一切意に介することなく、子犬が母を見つけて駆け出すような軽い足取りでミナトのもとにやってくる。
「んふぅ、我が君、早速ワタシにお熱かしらん?強くなった理由なんて、ひとつに決まってるじゃない」
獅子を思わせるザテトラークの顔がようやく拳ひとつ入るかという距離まで近づき、ミナトは苦笑いを浮かべながら痛む足を気にすることもなく後退りをする。
「んっ、驚きの近さ。距離感バグ」
「ふうっ、ようやく体調が落ち着いたと思ったら、男同士でなにやってるの?ミナト、強くなった理由とやらを聞かないと話が終わらなさそうだし、チャチャッと済ませちゃって」
ミナトは仲間の無責任な物言いに口を尖らせるが、諦めたようにしぶしぶ用意された問いをそのまま投げかける。
「ザテトラークさん、ボクと戦ってた時より遥かに強くなってる気が………」
「愛よ、我が君、ミナト様への愛。知ったの、真実の愛を。きっと肉体が本能的に、ミナト様こそ生涯お仕えすべき主だって感じてたのね。そう、ワタシ感じちゃったの。これからは愛しの我が君のために頑張るわ」
食い気味な返答からの、濃厚な愛を溶かし込んだ野生味溢れるウインク。
ミナトは顔を強張らせながらもその感情の濁流のような熱視線を受け流し、今回の一件を着地させるために剣を松葉杖代わりに立ち上がる。
「ボクはシンギフ王ミナト、君達ベスティアと共に歩む者だ。ボク達は争ってきた。ベスティアやブレニムの民を野蛮な亜人と蔑み、敵視する人間も多い。反対に、君達に様々な物を奪われ、憎んでいる者もいる。だけど、それは全て過去のことだ。過去は変えられない。だけど未来はボク達の手で作れる。共に新しい未来を作ろう!!」
ミナトの演説が大森林に響き渡る。
ベスティアの戦士達は新たな主人となったミナトの呼びかけに対し当惑しているのか、仲間と顔を見合わせどう反応すべきか様子を窺っている。
「んっ、ではお手を拝借」
混沌とした雰囲気のなか、リオは無遠慮にミナトの横にトコトコと歩み出て、両手を太陽にかざしヒラヒラと動かす。
「何かするの?」
「シンギフ王国の恒例行事。王国民としての通過儀礼」
レティの質問に親指を立て応じるリオ。
同時にデボラがため息をつき、アルベラが眉間にしわを寄せる。
「あぁ、アレか………」
「アレね。アタシはやった事ないけど………ホントにやらなきゃダメ?」
「あれは自然発生というか、偶発的に起こっただけで、特別意味がある行動じゃないから別に恒例行事にしたいわけじゃ………」
「ミナト陛下、良いではないか。我らブレニムの民もベスティアもシンギフ王国では新参者。郷に入っては郷に従えと言う。敵だった者同士、シンギフ王国流の勝鬨を共にあげてみるのも面白い」
「そうね、私からもお願いする」
「愛しの我が君がやることなら何だって真似しちゃうわ。ベスティアの戦士達よ、お前達も新たな王に続くのだ!!!」
その場にいる全員の視線がミナトの小さな身体にのしかかる。
「そうだね。じゃあ、リオ、音頭を取ってもらえるかな」
「んっ、承知。シンギフ王国名物、ウェイウェイ七拍子~。ウェイウェイウェイ ウェイウェイウェイ ウェイウェイウェイウェイウェイウェイウェイ。はい、ウェイウェイウェイ ウェイウェイウェイ ウェイウェイウェイウェイウェイウェイウェイ」
「そんなんだったっけ!?まぁ、いいや、みんなリオに続いて!!!」
大森林にこだまする無数のウェイの声。
いつ終わるともしれない勝鬨のなかで、ミナトは亜人と人が共に描く未来を見据えていた。
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