真実の愛
「あふぅ………おぅん………もう、もうダメぇ、勘弁してぇ、ワタシの負け、降参だからぁ」
ザテトラークが甘ったるい吐息を口の端から漏らしながら、艶めかしいポーズを取りつつ自らの敗北を認める。
ミナトの右手には切り取られた角が握られ、その一事をもってどちらが勝者となったのかは明白であった。
「えっ、あっ、さっきまでと言葉遣いが違うような………………ま、まあ、今はいっか。えっと………ボクが勝ったってことで良いんだよね?」
ミナトは地面に膝をつき尻を突き出すザテトラークの背に跨ったまま、助けを求めるように周囲を見渡す。
「レティ、なんで視線逸らすの?ボク勝ったんだよね、もうこれ以上命のやり取りはしなくていいよね??」
「うん………いいんじゃないかな?すっごく激しい戦い………………うん、とにかく凄かったよ………プッ」
「あぁ、流石は六大魔公を打ち倒したミナト王と言うべき壮絶な戦いだった………本当に壮絶な………………ククッ」
「いや、どうして顔を背けるの!?笑ってない??ちょっと笑ってるよね!!??」
ミナトの必死の呼びかけにもレティとバイムトは決して顔を見せることなく、背を向けながら肩を震わせる。
「まぁ、過程はともかくミナトの勝ちだ!!お前らもそれでいいな!!」
デボラの大喝。
それに呼応するように、辺りを取り囲むベスティアの戦士達はそれぞれが手にした武器を握りしめ、怒気を漲らせる。
「こんなもの認められるか!!あのような醜態を晒した面汚しなど最早王ではない!!お前たち、俺に続け!!こいつらを皆殺しにし、ベスティアの汚名を晴らすのだ!!」
若いベスティアの戦士が前に躍り出て、武器を上空に向け突き上げながら仲間を扇動する。
大半の戦士達は事の成り行きを静観しているが、やがて幾つか同意する声が聞こえ、すぐさま大きな波となりミナトのもとまで打ち寄せる。
「よしっ、行くぞ………」
仲間を扇動した戦士は、ザテトラークに向かい駆け出そうとした刹那、その顎先に触れた硬く冷たい感覚に硬直した。
「ミナトが勝った。漢の勝負。どんな形でも勝ったほうが偉いルール」
リオはゴブホリボルグの先端で顎をツンツンとつつく。
「女、いますぐ死にたいのか!?」
ベスティアの若者は目の前の小柄な少女の鼻先に錆びた槍を突きつける。
「動いたら掘る。掘ると10倍くらいに膨れて破裂する。もう一度だけ警告。ミナトが勝った。勝ったら言うことを聞く約束。嫌なら最初から反対すべき。そうしなかったのは勝てると思ったから。もしくは怖くて言い出せなかった」
「貴様、誇り高きベスティアを愚弄する気か!!」
「誇りがあるなら約束は守るべき。破るなら殺す。一人残らず殺す」
リオは突きつけられた槍を人差し指で押し返す。
「なっ、何を………お前ら何をしている、このガキを踏み潰せ!!」
どれだけ力を込めて槍を押し込もうともビクともしないことに焦る男は後ろに控える仲間達に命令するが、誰一人として動く者はいない。
「止めておけ………ふんっ、これだけの殺気を叩きつけられて、なお力の差すら分からんとは、愚か者め。人の王よ………いや、愛しの我が君よ。身内の不始末はベスティアの長である我に任せて貰いたいが、いいかしらん??」
「えっ、あっ………………はい、よろしくお願いします」
ミナトは諸々気になる点には目を瞑り、ザテトラークの申し出を快諾する。
「大丈夫?かなりボロボロ」
「気遣い無用。遣えるべき主を知り、真実の愛に目覚めしワタシに不可能はないわん」
「んっ………んっ………」
リオは何かを気の利いた返しをしようとするが、ザテトラークが纏う言い知れぬオーラに気圧され、無言で場所を譲る。
「人の子どもに遅れを取った身で俺に勝てると思ってるのか!?今からベスティアの王はこの………」
ゴギッ
鈍い音とともに若いベスティアの首が180度回り、数秒遅れて自らの命が失われたことに気づいたのか、獅子の下半身は地面に吸い込まれるように崩れ落ちた。
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