死の舞踊
「非力がたたるな。片手でどこまで振り落とされずにいられるか、試してやろう!!」
首筋の拘束が緩み力を取り戻したザテトラークが森中に響き渡る叫び声を上げると、ミナトの身体はグワリと沈み込み、次の瞬間湖面を魚が跳ねるように大きく上に投げ出されそうになる。
(くそっ、片手じゃザテトラークを御しきれない!!振り落とされたら勝ち目はない、死ぬ気でしがみつけ!!)
ミナトは茨の縄を掴む左腕を引き寄せ、ザテトラークの身体に両足を巻きつけ振り落とされまいと懸命に耐える。
「グッ!!」
折れた足から激痛が走り、息が吸えなくなる。
それでも、必死に足で胴体を掴み、一瞬の隙を待つ。
(ザテトラークの限界を待つんだ。こんな無茶な動きはいつか止まる。ボクが剣を手にしている以上、後ろに倒れ込むことも不可能だ。剥がされなければ、ボクの勝ちだ!!)
無秩序に暴れ回るザテトラークの背にミナトが馬を御する騎手のように跨る。
沈み込み、浮き上がり、真横に飛び、反動をつけ逆側に跳ねる。
絶え間なく重力のかかる方向が変わり、その度に折れた手に縄が喰い込み、折れた足には痛みが走る。
「んっ、地獄ロデオ。振り落とされたら死ぬ闇のエクストリームスポーツ」
「ロデオ?スポーツ??相変わらず意味不明なとこ悪いんだけど、あんまり落ち着いてもいられない状況じゃない?」
「あぁ、かなりヤベエな。ひん曲がった足で何とか堪えてんだ、いつ意識が飛んでもおかしくねえよ………だけどな、ああなった時のミナトはしつけえぞ」
「グオオオオオオッ!!!」
悲鳴にも似た咆哮が周囲を飲み込む。どれだけ激しく暴れ回っても決して背から離れることはないミナトに業を煮やしたザテトラークは、両腕で折れた足を掴み引き剥がそうとする。
「ッッッッッッッッツ!!!!」
ミナトの肺から声にならない悲鳴が零れる。
しかし、ベスティアの王が何をしようと、どれだけ苦悶の表情を浮かべようとも、ミナトは奥歯を噛み締め意識を保ち、勝機を待ち続ける。
どれだけの時間が経っただろうか。
苦痛に耐え続けるミナトにとっては永遠にも感じられた数分は、確実にザテトラークの肉体を蝕んでいった。
息を止めるまでには至らないものの、首筋には未だ金の茨が絡みつき呼吸を阻害し、背後から感じるプレッシャーは王の強靭な精神をも疲弊させていく。
ミナトを振り落とそうとし、幾度も跳躍を繰り返したことで、獅子の下半身はまともに駆けることすら難しいほど消耗している。
指先には力が入らず、言葉を発する余裕もなくなり、動きからは躍動感が失われている。
「粘り勝ちね」
アルベラが呟くと、同意を示すようにリオやデボラも頷いた。
(動きが止まった、今なら倒せる!!)
ミナトは剣を握り直す。
すると気配を察知したのか、再びザテトラークが足に爪を突き立て肉を裂くが、ミナトはその痛みを意に介することなく白刃をかかげる。
(ここから狙える急所は3カ所。頸動脈、肺、心臓、一度ではこの分厚い筋肉を鎧を貫けなくとも何回も繰り返せば確実に勝てる………ボクはこのベスティアの王を殺すことが出来る)
剣を握りしめたままミナトの動きがピタリと止まる。
「何やってんだミナト!!躊躇してる余裕はねえ、これは命のやり取りだ!!やらなきゃやられるんだ、殺せ!!!!!」
(そうだ、デボラさんの言うとおり、これは命を賭けた勝負。ボクもザテトラークも、死という結末だって受け入れる覚悟で始めた決闘なんだ。殺すんだ、そうすればベスティアはボクの傘下に入る。街道の安全は守られ、物流は復活して、帝国と王国の多くの人が潤う。ここでこのベスティアの王を殺すことが皆のためになるんだ………………………本当にそうなのか)
痺れ少しずつ力の入らなくなってきている左腕を手繰り寄せながら、ミナトは頭を振った。
(ボクの理想の国は敵を殺し続ければ手に入るのか。邪魔者を排除して、相手を出し抜いて、不必要な者を切り捨てて………本当にそれしか道はないのか!?違う、ボクが欲しいのはそんなんじゃない。この世界がボクを受け入れてくれたみたいに、そんな国をボクは作りたいんだ!!)
ミナトは再び剣を固く握りしめた。
その刃が振り下ろされる先が何処なのか、それはミナトにも分からなかった。
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