茨の首飾り
(ボクはここで死ぬかもしれない。リオに戦って貰えば、アルベラに指示をすれば、デボラさんにお願いをすれば、ボクはただ仲間が亜人を倒すという物語を一観客として見ているだけで目的を達成出来ていたはずなんだ………きっと、そうすべきだったんだろう。それなら、ボクはなんで戦ってるんだ?自分の命を、仲間の未来を、国の将来を、国民の生活をかけてまで、どうして??………多分理屈じゃない。ボクは自分の力で勝って示したいんだ。ボク自身が勝つことでしか描けない未来を。証明したいんだ。だから、こんなところで死んでいられない!!)
ミナトの背後から大地を蹴る音がした。
(来た!!ここだ、この瞬間なら届く!!)
呪符を地面に置くと込められた魔法を発動する。
ゴウッ
気体が膨れ上がるような聞き馴染みのない音が骨を伝わり、同時に周囲が黒煙に覆われる。
「くっ、火球の類を地面に向かって放っただと!?自爆に巻き込んで殺すつもりだったとでもいうのか………いや、お前のことだ、無理やり生み出した混沌の中で我が命を狙っているのだろう。しかし、この程度の目眩しで隙をつけると思うなよ!!」
ザテトラークは黒煙に紛れて行われるであろうミナトの奇襲に備え、両腕で胸部を覆う。
ベスティアと人の体格差を考慮すると、急所となりうるのは心臓と頸動脈だけだろう。
それ以外の場所は、人の力で致命傷を負わせることはほぼ不可能だ。
折れた足でどのように奇襲を仕掛けるのかという疑問こそ残るが、心臓と頸動脈を切り裂くことの出来る剣による下からの突き上げを警戒したザテトラークの発想は極めて合理的なものであった。
しかし、ベスティアの王はひとつ重大な見落としをしていた。
目の前で起こった小爆発の意味を目眩しと考え、ある可能性を思考から除いてしまったのだ。
それは………
ドスッ
頭上から降ってきた落石に当たったかのような衝撃がザテトラークの脊髄に走る。
突然の痛みに思考が一瞬途切れるなか、ベスティアの王は咄嗟に自らの背に落ちてきた何かを確認しようとする。
「グアッ!!」
刹那、ザテトラークの太い首に金のネックレスが飾り付けられる。
それはドリアードの茨の髪を鞣してより合わせた、ミナト愛用の魔具だった。
「ザテトラーク、今度はお前が決める番だ。命を選ぶか、敗北を選ぶか!!」
ミナトの両腕の筋肉が盛り上がり、血管が浮き出る。
渾身の力をもって締め上げられる金の茨は、まるでそれ自身が呪いであるかのようにゆっくりと首に喰い込んでいく。
「くぅっ………ふっ、哀れだな。もう数年時を経ていれば、このまま絞め殺すことも出来ただろう。だが、その程度の力でザテトラークの命を断つことはできん!!」
喉を締められながらも、ザテトラークの声はミナトの肌をひりつかせるほどの圧があり、その事実はミナトの膂力がベスティアの王の頑強な筋肉の鎧を打ち破れなかったことを物語っていた。
ブワッ
突然の浮遊感。
ザテトラークの身体が宙に浮き、ミナトの身体も宙に浮く。
ドサリ
背骨が軋み、全身がバラバラに引き裂かれるような感覚がミナトを襲う。
(何が起こったんだ………そうか、ザテトラークがボクを潰すために後脚で跳ねて背中から落ちたんだ)
仕組みは至極単純だが強力無比な攻撃。
ミナトは上半身を羽交締めにしているため、獣の下半身の体重までもが衝撃に加わるわけではないが、凄まじい速度で叩きつけられる地面は、まるで鉄板のように硬く感じられる。
ミナトが遠のく意識の中でザテトラークの首筋を凝視する。
(落下の衝撃で縄は深く食い込んでる。だけど、まだ足りない。このままじゃ、ボクが意識を失う方が先だ。なら………)
ミナトは両手で締め上げていた茨の縄を左手に絡め手綱を絞るように引き付けると、右手にデュゼルの剣を握る。
(竜鱗すら断つことの出来るデュゼルの剣なら、この体勢でもザテトラークを倒せる!!)
晴れていく黒煙の隙間から差し込む陽光を受け、刀身が鈍く輝く。
その輝きが指し示すものは何なのか、今のミナトには知る由もなかった。
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