小手調べ
「では、まずは小手調べといこう。この程度で死んでくれるなよ!!」
ザテトラークが右手に持ったミナトの背丈程もある鉄槌を一文字に横凪。
持ち手から先端まで、全てが金属で出来た鉄槌の重量はフルプレートメイルに匹敵するだろう。
並の人間であれば両手を使い全身全霊の力を込めても持ち上げるだけでもやっと、鍛え上げられた冒険者であっても振り上げることすら難しい鉄の塊が、熟達した戦士が振るう剣となんら変わらぬ速度でミナトを襲う。
ブウンッ
生温かい風が髪をフワリと揺らす。
(速い!!相手の得物は鍛え上げられた鉄塊。加えてあの膂力に速度。剣でいなすことは難しいし、防具も役には立たない。かすれば骨が砕け、直撃すれば一撃で死ぬ)
背筋を冷たい汗が伝う。
ミナトは本能が忌避する濃厚な死の恐怖を理性で抑え込み、冷静に彼我の戦力を分析し勝ち筋を探る。
(あれだけの重さの武器を振るう以上、どれだけ強靭な肉体を持っていても避けられれば一瞬体勢が崩れて隙が生まれるはずだ。その間隙を狙うんだ)
「ほぅ、良い動きをする。大抵の人間はこの初撃すらかわすことができず死ぬが、王というのは伊達ではないな。ならば、これはどうだ!!」
大上段からの振り下ろしがミナトを襲う。
(さっきより更に速い。でも、この間合いなら避けられる)
鉄槌の間合いを見切り最小限の動きで振り下ろしをかわし、剣での反撃を試みる。
ザッ
刹那、体勢が崩れている上半身と別の生き物のように、獅子の下半身が大きく跳躍し、ミナトという獲物めがけ飛びかかる。
「くっ!!」
ミナトは爪での攻撃をすんでのところで回避すると、二度三度と襲いくる獅子の猛攻を大きく後ろに飛び退くことで凌ぎきる。
地面は四本の脚により深々と抉られ、その光景は人の身で大型肉食獣の強襲を受けた場合どのような結末を迎えるかということについて、百の言葉よりも雄弁に物語っていた。
「こちらの隙をついて反撃に転じる度胸、意表を突いた攻撃にも対応できる冷静さ、それを可能にする身体能力。悪くない、想像以上に楽しませてくれるではないか。しかし、逃げてばかりでは勝利は掴めんぞ!!」
グワンと地面がたわみ、巨体が宙を舞う。
爪、鉄槌、爪、突進。
息つく暇もなく繰り出される波状攻撃をミナトは全力で避け続ける。
(圧倒的なパワーとスピード、得物と爪のコンビネーション、少しでも反応が遅れれば即死だ!!)
「こんな一方的に攻めたてられたら、いつまでも避けてられない。このままじゃ………」
次々と襲い来る猛攻をただ耐え忍ぶミナトの姿にレティが言葉を失う。
「いや、ケンタウロスのお嬢ちゃん、安心しな。ミナトは考えもなしに喧嘩を売るようなバカじゃねえよ。勝てない喧嘩と買えない女は諦めろって、オレが口を酸っぱくして言い聞かせたからよ」
「でも、ここから勝つ方法なんて………」
「ないわけではない」
バイムトは腕組みをし両者の攻防………端からみればザテトラークの攻とミナトの防でしかないが、その命を賭けたやり取りを目で追い、か弱い人間の王が描く勝利への道筋を推測する。
「ベスティアは強い。力もスピードも体格も規格外だ。だが、その巨体を支える心臓と肺は、人間とさほど大きさは変わらない。つまり………」
突如電池が切れたかのように獣の身体による猛攻が止み、使い切った酸素を補給するように人の肺が大きく息を吸う。
「まっ、あの調子で攻めればそうなるわよね」
(ベスティアは獣じゃない、あくまで人なんだ。人の肺、人の心臓が獣の肉体を動かす。その矛盾が生んだ隙こそが弱点!!)
ミナトは左手に掴んでいた3本の投げナイフを顔目掛け全力で投じる。
(たとえ大したダメージを与えられなくとも、人であれば顔に物を投げれば反射的によけるか弾く)
ザテトラークはミナトの想像通り、鉄槌を盾とし投擲物を防ぐ。
(人であれば注意をひいた後にボクが攻勢に出ると考え、それを阻止すべく限界だろうが反撃に転じる)
振り上げ投げナイフを防いだ鉄槌がそのままの勢いで天高くかかげられ、一直線に振り下ろされる。
(速い………でも遅い!!肉体の限界が近いんだ、ボクが余裕をもって避ければ、呼吸を整えるためにも機を見て引こうとするはず)
鉄槌での一撃が難なくかわされたザテトラークは、大きく前に跳躍するとともに前足を振り下ろし、ミナトが距離を取るのに合わせ自らも後退しようと下肢に力を込める。
(いまだ!!)
数度繰り返された攻防のなかで作り出された幻影は、ザテトラークにミナトの次なる行動を誤認させた。
ミナトの選択、それはザテトラークの肉体の限界と精神の間隙を狙った、乾坤一擲の突進だった。
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