ザテトラーク
ベスティア。
肉食獣の下半身を持つ亜人であり、多くの冒険者にとって畏怖と敬意と憧れをもって語られる強者。
人と交流を持つことはケンタウロスよりも更に稀であるため、姿を見たことのある人間は少ないが、その事からベスティアを人喰いの化け物と噂し、ゴブリンなどと同じく魔物に分類する国もあるという。
ミナトは生まれて初めて出会うベスティアを凝視する。
体躯はケンタウロスよりも一回り大きく、獲物を狩ることに特化した下半身は固く分厚い筋肉と毛皮に覆われ、投げナイフを投じたとしても大したダメージは与えられないだろう。
しかし、それ以上に目に引くのは、人と同じ姿をしていると言われる上半身である。
僧帽筋は高く盛り上がり、胸板はミナトの倍はあろうかというほどの厚みを持ち、腕は丸太のように太く長い。
顔は毛に覆われ、眼光は鋭く、唇からは狼を思わせる犬歯がはみ出し、虎や獅子がそのまま人となったような異様な風貌をしている。
そして、額には一角獣を思わせる一本の角。
ケンタウロスの上半身が逞しい遊牧民族の姿とすると、ベスティアの上半身は獣と人の合いの子であると言った方がしっくりくる容貌だ。
そのような特異な姿をしたベスティアがミナト達を取り囲むように半円状に広がり、一際立派な体格をした一人の男………ミナト達から見れば一頭の雄が大地を蹴り躍り出る。
「ブレニムの奴輩が人を伴って何用だ」
獣から言葉が発せられたような強烈な違和感。
しかし、その言い回しは古風ではあるものの人と同等の知性を感じさせ、芝居がかった口調も相まってまるで時代劇のワンシーンを見ているかのような錯覚に襲われる。
「私は族長マームードの娘、レティ。名を名乗りなさい」
「威勢のいい小娘だ、跳ねっ返りは嫌いではない。さて、下々の者の言葉には応えてやるのが王というもの。よかろう、名乗ってやろう。我の名はザテトラーク。亜人を束ね、魔物を支配し、人を奴隷とする王の中の王の名だ」
「ベスティアの王ザテトラーク………私達の土地を侵して何をするつもり」
レティが矢を番えると後ろに控えたベスティアの戦士達に殺気が漲るが、ザテトラークは眼前の少女の怒りにも自らの部下の殺意にも些かも動じることなく、再び口を開く。
「知れたことよ、お前達ブレニムの民を我が傘下に加えてやろうとここまで駆けてきた、それだけだ。ベスティアの侵攻に恐れをなし全員が逃げ去ったかと思ったが、族長の娘がいるならば話は早い。お前を我が妾としてやる。答える必要はない。今すぐ跪け」
一方的な要求。
傲慢で強引な物言いではあるが、ザテトラークには自らの提案が不遜なものであるという意識は微塵もないらしく、むしろ格別の配慮をもって優遇してやるといった恩着せがましさすら見え隠れしている。
「馬鹿にしないで、そんな馬鹿げ話、お断りよ!!………分かったでしょ、こいつらは話が通じる相手じゃない。亜人にとっても、人にとっても、倒さなきゃならない共通の敵」
「敵か、ならば話は早い。帝国が敵ならば帝国を、王国が敵ならば王国を、世界が敵ならば世界を、敵となる者すべてを跪かせる、それがベスティアのやり方だ。人間、貴様は小娘が雇った冒険者か」
黄色い双眸が小さな身体に突き刺さる。
ミナトは肌をひりつかせるような視線を振り払うように足を踏み出す。
「違う、ボクはシンギフ王国の国王ミナト。この土地の新たな主人だ。ベスティア王ザテトラーク、お前に一騎討ちを申し込む」
一騎打ちというミナトの発言に場が一瞬静まり返り、やがてベスティアの戦士達から大波のような笑い声が起こり、森を揺らした。
「一騎打ちだと?くくくっ、弱小部族にそそのかされた食い詰め者の冒険者かと思えば、王を自称する狂人の類だったか。こんな子どもに縋るとは、窮すれば鈍するとはこのことだな」
「あらっ、ミナトがジェベル王国から正式に領土を割譲されたシンギフ王国の王なのは本当よ。これはジェベルからの国書の写し。文字くらいは読めるでしょ」
アルベラが指先で一枚の羊皮紙を弾くと、紙飛行機のようにフワリと舞いザテトラークの手元に収まる。
「ほぅ、よく出来ているな。ペテン師であったとしても、それなりに用意周到な輩であることは認めよう………仮に王であることが真実であるならば、我が覇道の始まりにちょうど良い」
「御託はいい。受けるのか、受けないのか、どちらだ。まさか子どもが怖いわけじゃないだろう?」
ミナトは剣を抜き、切っ先をベスティアの王に向ける。
「安い挑発だ。だが乗ってやろう」
ザテトラークは羊皮紙を破り捨てると、四本の足で大地を固く踏みしめ、不敵に笑った。
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