大森林
「大森林には魔物の討伐依頼で何回か入ったことがおるけど、ここまで奥深く来たのは初めてだよ」
「ミナト、気をつけろよ。油断してっと藪から飛び出してきたダイヤーウルフに首筋をガブリとやられるぜ」
デボラは分厚い掌で首筋をパシリと叩くと、胸の奥で沸き立つマグマのような闘争本能を吐き出すように大笑いした。
「んっ、デボラのバカ笑いで敵が寄ってくる」
「大丈夫、この辺りは私達の縄張りだから、獣も魔物も蹄の音を聞けば散ってく」
天幕内での会合を終え、ミナト達はレティとバイムトの案内でベスティアの居住地を目指していた。
同行者はリオ、デボラ、アルベラの3名。
相手が好戦的な亜人ということもあり、万が一の事態を想定し、襲われても即応できるメンバー構成となっている。
「しかし、王よ、本当に良いのか?族長の娘が同行しているとはいえ、昨日今日会ったばかりの我らに王都の防衛を任せるとは、豪胆にすぎるのではないか」
バイムトの言葉通り、現在王都はミナトの依頼によりマームード率いるブレニムの民により守られていた。
もちろん数千の戦士全てを王都に貼り付けているわけではないが、それでも城壁の内側に数十、壁外には百を超えるブレニムの民が闊歩し、その気になれば王都を一飲みすることも不可能ではない。
「いえ、ボクらとしては助かってます。シンギフ王国はまだ建国したてで城壁も心許ないですし、デボラさんが鍛えてくれている守備兵も10人位いますが、ベスティアはじめ魔物の大軍が襲ってきたらひとたまりもありませんから」
「バイムトはそういう意味で言ったんじゃないと思うけどなぁ。でも、私達のことを信頼してくれてありがとう」
「これが王の器か………やはり我らとは度量の広さが違う」
「ははっ、楽天家なだけですよ。本当なら今日一緒に来たうち一人でも王都に残せれば、皆さんに余計な負担をかけずに済んだんですけど、場合によってはシンギフ王国の力を示さなければならないので………なるべく穏便に済ませたいですけどね」
(そうだ、ブレニムの民のように話し合いで解決できる相手ばかりじゃない。もしも相手が王国の民を害するのであれば………ボクは亜人を、人を手にかけることになるかもしれない)
ミナトは掌を見つめる。
この手で剣を握り無数の魔物を殺してきたが、その中には一人として人はいない。
人を斬るかもしれない、その事実はミナトの心の奥底に深い影を落としていた。
「王よ、心配することはない。六大魔公を封じた王の威光をもってすれば、野蛮なベスティアといえども表立って敵対することはないだろう」
バイムトはミナトの表情が硬いことを感じとったのか、殊更明るい口調で楽観的な未来像を描いた。
「ありがとうございます。だけど、ボクとしては自分が一番心配です。鮮血公を封印することが出来たのも、運みたいなものですから」
「謙遜だな。強者を率いるは強者の証。我らはアルベラ殿の実力は身をもって知っている。デボラ殿も体格と立ち振る舞いを見れば、ブレニムの民が数十人がかりでようやく相手になるかならないかの強者であることは分かる。それに並ぶ実力となれば、リオ殿も剣を帯びてはいるが高名な魔法詠唱者なのか」
「んっ、魔法はつかえない。基本肉体言語で戦うタイプ。今日も掘りまくる」
リオはポシェットからゴブホリボルグを取り出すと、先端を指でつつく。
「魔物相手じゃないから掘っちゃダメだからねっ!!………えっと、リオはちょっと変わった戦い方をしますけど、誰よりも強いので安心してください」
「アルベラ殿よりもか」
「悔しいけど、アタシより上よ。遥かにね。もしこの化け物に勝てる相手が敵に回るのなら、追いかけてこないことを祈って星の裏側まで逃げるのが賢明ね」
「それほどとは………世界は広く、まだ見ぬ強者は多いな」
「静かに。どうやら、私達が知る強者が来たみたい。まだ境界からだいぶ離れてるのに、もうここまで来てるなんて………」
レティが呟き身構えると、バイムトは主を守るように前に歩み出る。
森が途切れ開けた一角に出ると、そこには獲物が自ら飛び込んでくるのを待ち構えるベスティアの姿があった。
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