王都へ
「ふふっ、とりあえずワタシは助かったって事でいいかしら?」
「そんな………ダメだ!!」
「もう、ミナトったら本当に強情ね、そういう所も大好きよ。わかったわ、じゃあ、こうしましょう。ミナトがワタシを殺せるまで強くなるのが一番だけど、すぐには難しいでしょうし、まずはこの暴力装置以外にワタシを殺せるような人間を探しましょう。それが見つかるまで、ワタシはミナトの仲間としてハーレム作りに協力する。本当は下僕のほうが嬉しいけど、最初はお友達からの方が良いみたいだしね」
質の悪いジョークにミナトが不快感を示すが、アルベラは気に留めることなく話を続ける。
「ミナトはいつかワタシを殺せるし、ワタシはミナトと一緒にいられる。リオご希望のハーレムだって作れる。全員が得をする最高の提案だと思わない?」
(確かにいまのボクにはアルベラを倒せない………それなら、近くにいて監視した方がいいのか?だけど、それじゃあ………)
「決まりね。コレからどうするの、ミナト」
「いや、まだ何も決まってなんか………」
「んっ、話は終わり。多分そろそろ始まる」
「始まるって何が?」
リオは問いかけるミナトに向け、腰のポシェットから取り出した水晶と、細やかな意匠が施された白銀製の台座らしきものをアピールする。
「とっておき」
水晶を慎重にくぼみに載せ、台座の中央に備え付けられたダイヤルのような物を捻り、小首をかしげながらトントンと叩く。
すると、切れていた線が繋がったかのようにジジジという機械音が流れ、同時に壁に光が投射され映像が浮かび上がった。
「これは………王都?」
壁に映し出された光景は、紛れもなくジェベル王国の王都ハイペリオンのものであった。
(金等級の昇級審査で一度だけ行ったことがある。ここは王宮前の大広場だったかな)
ミナトは記憶の糸を辿り、混乱する頭を整理する。
(それにしても、まるでプロジェクターだ。この世界じゃ、メールみたいに文字でメッセージを飛ばすだけでも、発信元と発信先に大規模な魔法陣を構築する必要があるはず。その魔法の応用で映像を繋いでいるとしても、とても個人で出来るような事じゃない。もしかしてリオは………)
「んっ、良かった、間に合いそう」
困惑する二人を他所に、一人頷くリオ。
「これって転移魔法の一種?それとも幻術の応用かしら。そのトンチキな装置にどんな魔法が込められていれば、ここまで美麗な映像を転送出来るのか知りたいところだけど、それはまた今度にしましょう。今はこのダンディーな髭のおじ様が話してる内容が重要なんでしょ?」
3人は装置から漏れ聞こえる音声に耳を澄ませる。
「親愛なるジェベルの民よ。諸君らも知っての通り、長きにわたり封印されていた六大魔公アルベラが蘇った。既にその魔の手は国境を侵し、王国の盾であるカロは灰燼と帰した。我々は………」
映像からはアルベラの脅威を謳う声が高らかに響き、過去に例のない国難に対し挙国一致で立ち向かう必要性が絶え間なく説かれる。
「あら、ワタシって有名人なのね」
アルベラは自らに向けられる敵意に対し、恍惚とした表情を浮かべる。それはまるで新しいオモチャを与えられた子どものような、無邪気な、そしてどこか危うさを孕んだ反応だった。
「そろそろ良いタイミング、行く」
リオは再びポシェットをまさぐると、物々しい紋様が所狭しと書き込まれた呪符を取り出す。それを地面に投げ捨てると、小さな部屋を激しい光が満たし、塗りの剥げたボロボロの床に俄かに魔法陣が現れる。
「行くって、まさか………」
リオはその問いかけにコクリと大きく頷くと、「ガールズトーク」と呟き、アルベラに耳元で何かを囁く。
「ふふっ、面白そうじゃない」
アルベラが人差し指を軽く噛むと、深紅の血煙がオーロラのように頭上に舞い上がり、失われたはずの二本の角が本物と寸分違わず再現される。
「んっ」
リオはミナトの手を無造作に掴むと、魔法陣に飛び込んだ。視界が溶け、音が消え去り、大きな意識の渦の一滴になったような表現しがたい感覚が身体を包む。
何分経っただろう。
あるいは数秒も経っていないかもしれないが、突如夢にも似た浮遊感が失われ、重力が再び肉体に重くのしかかる。
ぼやけていた視界が回復すると、そこに広がっていたのは、先ほど映像に写っていた王都そのものだった。
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