族長マームード
「ブレニムの民を束ねる族長マームードよりシンギフ王国国王ミナトに告ぐ!!今すぐ同胞を解放し、王自ら族長の前でこの度の蛮行の申し開きをせよ!!繰り返す、今すぐ同胞を解放し、王自ら謝罪せよ!!もし一刻のうちに返答がなければ、このみすぼらしい集落を焼き払い、どれだけ逃げようともこの大地の果てまで追いその背に矢を突き立てるだろう!!繰り返す………」
数百メートルは離れているにも関わらず、王都中に響きわたる恫喝に王国の民は不安げな瞳でミナトを見つめる。
「おいおい、あいつら人質の意味わかってんのか」
「数に恃んで脅せば折れると思ってるんでしょ。どうするミナト」
平原に大きく散開するブレニムの民は千を超えるだろうか。
直前まで一塊となっていたが、アルベラの魔法を警戒してかそれぞれが一定距離を取り、状況に即応できるよう手には矢を番えた複合弓を持っている。
もし魔法や弓などで攻撃すれば、即座に王都を取り囲み矢の雨を降らせる算段だろう。
そして、僅かな柵で覆われた王都では千を超える鉄の雨を防ぐことは難しく、交渉に失敗すればその対価は国民の命をもって支払うことになりかねない。
「アルベラとデボラさんは皆を練兵場のほうに避難させてください。穏便に話し合うつもりですけど、万が一にでも誰かに流れ矢が当たったら、戦わざるを得ないかもしれません。ただの威嚇ならいいんですけど………」
複合弓の射程は数百メートルに及ぶため、脅しの為の矢が当たる可能性もある。
(もし本当に誰かの命が奪われるようなことになったら………その時は………)
ミナトは最悪の未来を想像し、硬く拳を握りしめる。
「父はやると言ったらやるわ。でも人質になったのは私の判断、そのせいで無関係な人たちまで犠牲になるようなことは嫌。父と話すつもりなんでしょ、私も一緒に連れて行って」
レティは険しい表情を浮かべるミナトの心中を察したのか、矢から人々を守るように前に歩み出る。
「ありがとう。リオ、縄を解いてあげて」
レティの手首は人質であることを示すように荒縄で縛られている。
ミナトにとってレティは実質客人ともいえる立場ゆえに拘束する必要はないと主張したが、当の本人が形式に拘りを見せ、改めて手を縛るということを落ち着いたのだ。
その拘束を解くということは、ミナトが族長の要求を受け入れ人質を解放するということを意味していた。
「………ダメ。私は貴方達を襲った責任を取って人質になったの。族長からの謝罪もないのに、解放される理由がない。安心して、父は私に甘いから私が人質として貴方達の側にいることが分かれば、矢を射かけたりはしないから」
「分かった。じゃあ、リオ、行こう」
「んっ、いざ一騎打ち」
「いや、しないからね!?トップ同士の一騎打ちで決着とかちょっと憧れるけど!!」
リオの一言にミナトの肩から力が抜け、顔には笑顔が戻る。
「行こうか」
ミナトとリオ、そしてレティが簡素な城門をくぐり、マームードの前に姿を現す。
リオの隣で逃げる気配もないレティを見て、マームードは部下達を後ろに下がらせ、バイムトのみを伴いミナト達の位置まで歩を進める。
「シンギフ王国国王ミナトです」
「ブレニムの民を束ねる者、族長マームードだ」
ミナトはレティの父でもあるケンタウロスの長を仰ぎ見る。
人で言えば年の頃40くらいだろうか。日に焼け、戦塵に汚れた肌は歴戦の猛者を思わせる威厳を纏っており、2メートルを超えているだろう巨躯と相まって対峙するものに凄まじい威圧感を与える。
「王と小娘一人でここまで来たということは人質を………我が娘を無条件で解放すると受け取ってよいか」
低く沈むような声。
その圧に思わず頷きそうになるが、ミナトには言わなければならないことがある。
(そうだ、形は違ってもこれも国王同士の会談………外交の場なんだ。シンギフ王国を守るために、この国に暮らす人々の生活を守るために、そして今はまだ敵対している様々な種族を守るために、こんなところで臆してる場合じゃない!!)
ミナトは意を決し口を開く。
いや、開こうとした。
しかし、ミナトの言葉が相手に届くより早くレティが一歩前に駆けだし、父であり族長であるマームードに対し切り出す。
「お父さん、その喋りかた恥ずかしいから止めて、キモイ」
少女から発せられた一言により、千を超える戦士に埋め尽くされた平原は時を止めたように静まり返った。
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