好奇心という名の刃
「うわ~、ケンタウロス~、ほんものだ~。太もも触っていい~?」
ミナトの天幕に通されたレティを待ち受けていたのは、幾つもの好奇の視線であった。
不意に幼い頃の屈辱が蘇る。
訪れた都市で背に突き刺さる好奇心という名の刃。
天幕が並んでいる光景にどこか親近感を抱いていたレティは、心が再び閉ざされていくのを感じた………そうなるはずだった。
「えっ………ナーガ!?」
物珍しそうに太ももをペタペタと触る美しい少女の下半身は、人のものでも馬のものでもなく、蛇そのものだった。
「なんでナーガが人の集落に!?」
レティはそう言ってから自らの不明を恥じ、口を抑えた。
純粋な疑問の発露であっても、言葉は時に相手を傷つける………しかし、そうは分かっていても、初めて見るナーガという種族についつい目が奪われる。
艶のある鱗に覆われた下半身は音もなく地を這い、上半身のみを見ていると魔法で宙に浮いているような強烈な違和感を覚える。
頭部には金の角………いや、これは精巧な髪飾りだろうか。
とにかくレティにとっては全てが瑞々しい驚きに満ち、その不思議な美しさは彼女を潜入者からただの少女へと戻していた。
そもそもナーガとケンタウロスを比較した場合、その絶対数には数十倍ほど開きがある。
もちろん多いのはケンタウロスであり、ナーガはその主たる住処である森においても極めて珍しい種族であった。
実際レティも生きたナーガを目にするのは初めてあり、長老格の大叔父が旅の行商から買ったという、ナーガの鱗で作った奇怪な魔除けを遠巻きに見たことがあるだけだった。
「うーん、私がここにいる理由〜?話せば長くなるんだけど~、色々あってミナトっちが私の家を壊しちゃったから、代わりに住まわせて貰ってるの~。ちょっと寒いけど、結構居心地がいいんだよ~。えっと………お名前は~?」
「私の名はレティ。貴方は?」
「ナーガのルーナだよ~、よろしくねレティっち~。ところで、さっきから私の足をジッと見てたよね~」
瞬間、ルーナの瞳がカッと縦に開き、レティはビクリと身体を硬直させた。
(バレてた………どうしよう、怒らせちゃったよね。謝らないと………)
「ふふ~、触りたいんでしょ~?わかる~、ナーガの鱗ってテラテラしててどんな感触なのか気になるもんね~。私も村にいた頃は赤ちゃん生まれたら一日中なでてたよ~。ほら~、遠慮せずなでなでして~」
ルーナはやや強引にレティの手を取ると、滑らかな鱗のうえをスッと這わせる。
「凄いツルツルしてる。光沢もキラキラしてて、凄い綺麗………」
なんの虚飾もない純粋な想いが唇から零れ落ちる。
「ありがと~、レティっちの足も長くてパンパン~って感じで張りがあって、超キュートだよ~、憧れる~」
レティは自分の頬が紅潮していくのを感じ、思わず俯いた。
「ふっふっふっ、でもね、触ってて気持ち良い部門だと、ウチには秘密兵器がいるんだよ~。クーちゃん、こっち来て~」
ナーガがふわふわと間延びした声で叫ぶと、天幕の入り口が開く。
「どしたどしたどした?………うわぁ、ビックリした、ケンタウロスかぁ!?初めて見るぞ、でっかいなぁ。流石ミナト、どんな種族でも雌なら見境なく捕まえてくるって本当だったんだな」
プルプルとした緑色の肌を持つ少女が駆け寄る。
本来であれば肉が揺れる際に使われるプルプルと表現だが、その少女においては意味合いが少し異なる。
その肌、その肉体、その存在自体が薄い膜に覆われた液体のように動くたびに激しく弾み、実際にプルプルという音を立てながら形を変えているのである。
「もしかして、ス………スライム!?」
「おっ、なんか新鮮な反応で嬉しいぞ!!最近はみんな私に見慣れて、ちょっと肌の透過率を上げても驚いてくれなくなって、つまんなかったんだ。ほらっ、こんなことも出来るぞ」
クーちゃんは得意気に身体を揺らすと、グッとお腹に力をいれた。
やがて透明ながらも何故か中までは見通せなかった身体が徐々に透けていき、内臓に当たる部分までクッキリと輪郭を帯びていく。
「どうだ、凄いだろ~」
エヘンと己の身体の不可思議な構造を誇ると、奥から小さな咳払いが聞こえた。
「あの、ボクもいたりするんだけど………」
クーは奥の奥まで鮮明になったお腹をサッと隠し、うるうるとした瞳で無言にミナトを見つめていた。
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