危険な賭け
「都市長、好きなだけとは剣呑な発言ですね。訂正願います」
交渉において対象となる品や数量、条件等を定めないおよそ商人とは思えない軽率な物言いをマイヤーが咎める。
「構わねえよ、このままじゃ干物になるのを待つだけだ。目の前のどでかい餌に釣られて働いてくれんなら、幾らだって出すさ。どうだ、交易路が復活すりゃ、帝国とジェベルの間に挟まってるあんたらも設け放題だ。悪い話じゃないだろ」
「………ひとつ確認させて下さい。交易路の安全を確保して人々が自由に行き来できるようにすること、依頼内容はこれで合っていますか?」
「あぁ、手段は問わねえ。亜人共を皆殺しにするも良し、カロみてえな拠点を作って巡回するも良しだ。なんなら、エルフの国にあるっていうバカでけえ転送装置をかっぱらってきて危険地帯を転移で回避するっていう、ガキの空想みてえな方法でも構わねえ。ただ、交易路を使う商人達に費用を負担させるようなのは無しだ。カロだって通行の安全をダシに税を取ったりしてねえからな」
ミナトは隣に座るアルベラの表情を窺う。
アルベラはいつも通りの微笑を湛え、面持ちからその真意を探るのは極めて困難であるといえるが、ミナトは何かに気づいたのか一人頷き、再び話し始める。
「分かりました。では、交易路の安全の確保についてはシンギフ王国の責任で進めます」
「本当か、助かるぜ!!あとは期限だが………そうだな、ちいとばかしキツイかもしれねえが、1週間で頼む」
ロイエは茶飲み話でもするかのような気軽さで、一方的に期限を提示する。
「強欲。やぱり掘っとくべきだった」
「無理に決まってるでしょ!?こことウチの王都だけでもどれだけ距離があると思ってんのよ!!」
エルムの言う通り、ゼダーンと覇王都NOBUNAGAの間だけでも馬を3日は走らせなければならない。それだけ離れた点と点と線として繋ぎ、更にその線を包むように安全圏を確保するとなれば、常識的に考えて最低でも数ヶ月、余裕を見るなら数年はかかる一大事業だろう。
「おめえの許可を貰うつもりはねえよ、俺は陛下と交渉してんだ。なぁ、陛下よぉ、ただウチも苦しいんだぜ。この状況が後一月も続けば商人共だってねぐらを変えちまう。だいたい俺が幾らだって払うって言ったって、都市長をやめさせられりゃ当然約束は反故になっちまう。交易路の確保が遅くなりゃ、ただ働きの可能性だってあるわけだ。お互いのためにも急いだほうがいいと思うんだがねえ。どうだい、この通りだ、頼まれてくれねえか」
ロイエが膝に手を当て、テーブルに額が触れそうになるほど深く頭を下げる。
この世界の常識に照らし合わせれば、たとえ相手が王族であっても儀礼的なやり取りを除けば貴族がこういった形で謝意を示すことはない。
軽率ともいえる腰の軽さは、一代子爵という爵位を有しながらもロイエが成り上がり者の平民であることを表していた。
「お受けします」
「はぁ!!貴方なに言ってるかわかってんの!?そんなの絶対間に合わない………」
ミナトはエルムに向け手をかざし発言を制すると、再び口を開いた。
「ただし、ボクからもひとつ条件を出させてください」
「構わねえぜ、俺で何とか出来る事ならな」
「もし一週間以内に解決出来たとしたなら、皇帝陛下との会談について取り成して頂けますか?」
『皇帝』というフレーズにマイヤーがビクリと身体を強張らせ、ロイエはポカンと大口を開ける。
「皇帝との会談!?陛下、横から口を挟む無礼をお許しください。我が国の皇帝は陛下と異なり極めて気難しく、気位が高い方です。無礼を承知で申し上げますが、シンギフ王国は新興国であり、帝国とは格が見合いません。謁見という形であれば可能性はないとは言えませんが、対等な会談ともなるとジェベル王国のジグムンド3世陛下であっても容易には………」
「………わかった、皇帝との会談だな。もし本当に1週間で片がつけられたなら、何とかしてみよう」
「都市長!!本気で言っているのですか!?」
「うるせえ、テメエは黙ってろ!!………陛下、こんな条件をつけるんだ、あんた本気なんだろ?」
「はい、本気です」
ミナトは睨みつけるようなロイエの視線に怯むことなく、淀みなく答える。
「なら決まりだ。陛下、期待して待ってるぜ」
ロイエの言葉にミナトはゆっくりと首を縦に振った。
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