探り合い
「単刀直入にお願いします。ボク達はまだジェベル王国から独立したばかりで、食糧をはじめ全ての物資が足りません。シャルロッテ………クレブレール侯爵から支援は受けていますが、今後国をより発展させるためにも、ゼダーンとの通商を望みます」
「せっかく国を割ったのにジェベルの属国にはなりたくねえから、帝国にも唾つけとくって魂胆か」
「それは………」
『違う』と即答すべき場面でミナトは口ごもる。
(属国になりたくない………そんなつもりで交渉に来たわけじゃ無いとは言っても、他国から見ればそう見えるのは否定できない。『違う』と答えれば、また異なる角度から言葉尻を捉えてくるかもしれないし、ボクはどう答えれば………)
ミナトが唇を噛み必死に言葉を探すなか、アルベラが口を開く。
「複数の選択肢を持つことは、国にとっても商人にとっても重要な事でしょう。幸い、ゼダーンは帝国から半ば自治を許された都市だと聞いているわ。特に交易に関してはね。国家間となると色んなしがらみを調整するだけで、年単位の時間を浪費してしまうもの。まずは手を取り合える範囲で、自由な交易を通じて幅広く連携を図ることは、互いの利益に繋がると思うけどいかがかしら?」
アルベラの発言にロイエは再びパイプを咥える。
「交易を通じた友好関係の構築か。お題目だけは立派だな。で、あんたらの品はなんだ。独立したばっかって言っても、千から万の国民がいるんだろ。食糧を買い付けるだけでも中々の手間だぜ………まぁいい、今回は両国の絆を深めるための祝いって事で安くしてやる。金貨で五万、それで1万人が冬を越せるだけの食糧、布に燃料やら揃えてやるぜ」
「金貨五万枚!?そんな大金とても用意は………」
提示された金額に驚きの声をあげるミナトの脇腹をアルベラが小突く。
「おいおい待て待て、金貨五万枚なんて国にとっちゃ端金だろ?しかも、こっちは破格の安値を提示してんだ、これで文句つけられても困っちまうぜ。まさか、あんたら文なしってわけじゃねえよな。………ちっ、そういうことか。国王自ら物乞いたぁ、貧すれば鈍するってやつだな。帰りな、野良犬に恵んでやる餌はねえよ」
ミナト達を追い払うようにロイエは手を振り、無駄足を踏ませやがってと言わんばかりに舌打ちをする。
「待ってください、話を聞いてください!!」
「んっ、帰る前にとりあえず記念にあの禿げ頭を掘っておく」
シャルロッテからの教えを胸になんとか会談を継続しようとするミナトの横で、リオはポシェットからイドホリボルグを取り出し、調子を確かめるように先をツンツンと指でつつく。
「私が許可するわ、派手にやっちゃって!!」
「いや、ダメだからね!?掘るとか論外だから!!」
「ちっ、子どものお遊びなら外でやれってんだ。ロイエ、国王陛下はお帰りだとよ。丁重にお見送りしておけ」
「かしこまりました………陛下、大変心苦しいのですが、今日のところはお引き取りを」
「そんな………シンギフ王国には貴方を満足させるだけの金貨はありませんが、それ以上の利益を生み出すことの出来るアイデアがあります!!ロイエ都市長、もう一度話をさせてください!!」
ロイエは立ち上がると、叫ぶミナトに背を向け奥の執務室へと下がっていく。
閉ざされていく可能性の扉を目の前にして、ミナトは何とか交渉の糸口を掴もうと対話を続けようとするが、その声は届くことなく虚しく響く。
「ミナト、今日は帰りましょう。新興国相手にここまで必死に仕掛けてくるんですもの、宿で待ってれば折を見てこの色男が手土産を持って謝罪にくるわ。せっかく用意してくれた茶番劇に付き合わないのも誠意に欠けるし、アタシ達の宿代食事代は賢い都市長さんにつけておいて、ゆっくり休暇を楽しませて貰いましょう」
「アルベラ、なにを………」
ミナトがアルベラの発言を咎めようとすると、奥の執務室から特大の舌打ちが聞こえ、ロイエが禿げ上がった頭をパシリと叩きながらドタドタと応接室に戻り、再びソファーに腰をおろす。
「あら、小芝居はもう良いの?」
「底意地の悪い女だな。放っておくと俺のつけで好き勝手飲み食いすんだろ?ゼダーンの宿はアンタらの国と違って超一流なんだ。片っ端から最高級ワインでも開けられた日にゃ、目も当てられねえよ」
苦々しい顔をするロイエを前にしても、アルベラは柔和な笑みを崩さずにいた。
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