仲魔
仲魔というとメガテンを思い出しますね
目が覚めると、そこにはいつもの天井があった。
変わらない日々、変わらない生活。
けれど、ボクは生きている。
それだけで十分だ。
ミナトはまだ半ば眠りについている脳に起きろと命令するように無理矢理大欠伸をし、身体を伸ばす。すると、曖昧だった意識の輪郭が少しずつ鮮明になり、昨日の記憶が蘇る。
(生きている………ボクは昨日死ぬはずで、だけど生き延びた。六大魔公と戦って、負けて、不思議な女の子に助けられて、生き延びたんだ)
もし吟遊詩人が酒場で歌っていたとしたら、お人好しのミナトであっても荒唐無稽な作り話だとして笑い飛ばしてしまいそうな、現実味のない出来事。
(おかしい、ならボクは何故自分の家にいるんだろう。やっぱり夢だったのかな?考えれてみれば、異世界に転生した事の方がもっと荒唐無稽な話だ。本当は最初から何もかも夢で、ボクはまだ病院のベッドで、ただ心臓が止まるのを待っているのかもしれない。それとも………)
ミナトは何かを確かめるように、寝る時も肌身離さず携えているショートソードに手を伸ばした。
むにゅ
柔らかい。
むにゅむにゅ
(触ったことのない絶妙な弾力、柔らかさ………なんだろう、凄く落ち着くけど、とてもいけない事をしているような、アンビバレントな感触。うーん、ベッドの上に何か置いてたっけ?)
今度はハッキリとした意識のもと、ゴロリと寝返りをうち、ショートソードがあるべき場所に再び手を伸ばす。
「あら、ミナト、朝から大胆ね。今から昨日の続きをするの?」
「えっ、あっ……………アーッ!!!アッ、アルベラ!?なんで、どうしてここに!?」
「どうしてって、ミナトが誘ったのよ。ワタシのこと好きなだけ弄んでおいて、一晩寝てスッキリしたら責任逃れなんて酷いんじゃない?」
ミナトは混乱から逃れるようにベッドから飛び起き、壁に立てかけてあったショートソードを手に取った。
「なに?ポイ捨てどころかポイ斬り?楽しむだけ楽しんで、飽きたら殺すなんて、とっても野蛮で、すっごく素敵」
「ふざけるなっ!!あれだけの事をしておいて、ぬけぬけと!!」
剣を握り直し、アルベラの首筋に白刃を這わせる。
「殺したいの?いいわ、ミナトがそうしたいなら、好きにして。どうしたの、抵抗なんてしないわよ」
アルベラは口角に僅かに微笑みをたたえ、自ら刃を肌に当てる。
刀身を通して、肉を切り裂く嫌な感触が伝わり、ミナトは思わず剣を引いた。当然それは錯覚であり、美しく張りのある皮膚には刃が当たった跡すら残ってはいない。
「んっ、絹を引き裂く乙女の悲鳴。ミナトの貞操の危機」
物音を聞きつけたのか、リオが無遠慮に扉を開け堂々と中を覗く。
「若い男女ひとつのベッドを分け合ったんですもの、貞操のひとつやふたつ無くなる方が自然でしょ?」
アルベラはわざと衣服を正すような仕草をした。
「ミナト………大人の階段登った?夜の帝王にクラスチェンジ??」
「登ってないから!!」
「今はそういうことにしておきましょう。それにしてもデリカシーに欠けるわね、もし愛し合ってる最中だったらどうするつもりだったの?………ところで、その右手に持ってる気味の悪い料理なぁに?地獄の底を開けたみたいな色してるけど」
「んっ、『アークデーモンのソテー、どす黒い血のソースを添えて』。悪魔は完殺しとすぐ灰になるから、半殺しの状態から肉を切り取るの大変だった」
「地獄じゃない」
「滋養狂騒に最適」
「狂騒でいいの?」
「んっ、問題ない。ほら、ミナト、あーん」
リオは雑に皿に乗せられた不気味な肉の塊を、子どもが親にとってきたカブトムシを自慢するかのように強引にミナトの鼻先にグイと近づける。
「食べないからねっ!?」
「しかし、ミナトといると、会話が前に進まないわね」
「原因ボクじゃないから!!っていうか、リオ、なんで六大魔公がいるの!?ボクの家に!!そもそも何で家を知ってたの!!?」
「安心して、ミナトのことなら何でも知ってる」
「安心できないけど!?真面目に答えて!!」
どこか誇らしげなリオの態度に、ミナトがすかさずツッコミを入れる。
「もう、忘れたの?ワタシはこの化け物に負けて、ミナトに忠誠を誓ったの。いまのワタシ達は言うなれば『仲間』ってわけ。よろしくね、ミナト」
アルベラはどこか人を喰ったような態度でそう言うと、扇情的な姿勢でベッドに横たわった。
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