真相
「流石にお姫様との会談で新しい女を引っ掛けてくるのは無理だったみたいね。密かにお姫様ごと持ち帰って来るんじゃないかと期待してたんだけど………それにしてもまた豪勢なお土産ね。これだけ支援が手厚いと何か裏があるんじゃないかと勘繰りたくなるわ」
平原に伸びた細い一本道を埋め尽くす荷馬車の列にアルベラが感嘆の声をあげる。
「んっ、これは実質戦利品。マナー講師もビックリの壮絶バトルの戦果」
リオがパンパンに膨れ上がった幌を手で叩き誇らしげに胸を張ると、奥で若者相手に剣の稽古をつけていたデボラがこっそりと馬車に近づき、幌をめくって積み荷を確かめる。
「なんだ、酒はねえのか。しっかし、これだけありゃ数ヶ月と言わず年単位で食いっぱぐれねえな。やっぱり持つべき者は太いパトロンだぜ、なんでもかんでもポンポンくれんだからよ」
デボラは荷をごそごそと漁りプラムを見つけると、無遠慮に齧りつく。
齧りとられた断面からは飛沫が舞い、程よい酸味を感じさせる清涼な香りが周囲を覆った。
「いえ、これらの積荷はとある事件の謝意として用意された物ではあるものの、その後の剣なき戦いの勝敗次第では、そっくりそのままお返しするという展開も考えられました。その事を加味すれば、リオ様のいう通り我が国の文化的勝利による結果と誇ってよいかと。これも全てデボラ様の薫陶のおかげです」
二つ目のプラムに手を伸ばすデボラにアルシェが頭を下げる。
「オレのおかげ?ひょっとしてお前ら、お姫様の衛兵相手に派手のやらかしたわけじゃねえよな。売られた喧嘩はどんだけ高値だろうが片っ端から買い占めろとは教えたが、自分から押し売りしろと教えた覚えはねえぞ」
「貴方じゃあるまいし、そんな野蛮なことするわけないでしょ。テーブルマナー勝負よ。ジェベル式しか知らない井の中の蛙に、私が帝国式の最新マナーを示すことでシンギフ王国の文化的成熟さを見せつけたってわけ。流石のお姫様も、私のあまりの完璧さに驚いて声も出せなかったんだから。まっ、アルシェも貴方に仕込まれたっていう古臭いマナーを使って健闘してたのは事実だけどね」
エルムが一息に捲し立てると、デボラは口をポカンと開け天を仰いだ後、何かに気づいたように大笑いする。
「どうしたんですか、デボラさん」
いきなり笑い出したデボラを訝しむようにミナトが問いかける。
「あ~、わりいわりい、思い出し笑いだ。そういや、前にギルドのアホ共と王宮の食事会に招待されたらどう笑いを取るかってネタで盛り上がったな」
「……………デボラ様、それはどういう意味でしょうか?」
「いや、どういう意味もそのまんまだぜ。『とりあえず脱ぎゃウケるんだよ』やら『スープで手を洗えばもっと上手いスープを出し直してくれるんじゃねえか』やら『皮を食べる料理で中身を食いだすのはどうだ』やら、バカみてえなテーブルマナーをでっち上げてたっけな。そういえば、あのアホマナーは考えた後どうしたんだっけか………そうだ、誰かに適当に教えてみてリアクション見ようぜってなったんだな。確か相手は………………」
デボラが頭をポリポリと搔きながら視線を正面に戻すと、そこには拳大の石を持ち肩を慣らすように投球動作を始めているアルシェの姿があった。
「アルシェ、まさかお前あれ信じてお姫様の前でやらかしたんじゃねえよな………ところで、そのバカでけえ石っころはなんだ?危ねえから捨てた方が…………いや、悪かった!!あんなもん信じる奴がいると思わねえだろうが!!とりあえず石投げんなって!!」
ゴッ
天高く足を上げたダイナミックなフォームから投じられた一頭がデボラのこめかみを捉え、巨体が地面に崩れ落ちる。
「あっ………デボラさん、生きてますか?」
「飲み過ぎのようですね。足を縄でくくって馬にでも繋いでおけば、程よい風を感じてそのうち起きるでしょう。後の処理は私にお任せください」
「うん………、ほどほどにね」
アルシェはミナトの言葉にコクリと頷くと、王都一の暴れ馬とデボラを繋ぎ、思い切り尻に鞭を打った。
「一周して戻ってくる頃にはペラペラの紙切れみたいになってるんじゃない、あれ。まっ、今回も色々あったみたいだけど、とりあえずは当面の危機は回避できたみたいだし成功と言っていいんじゃないかしら。お疲れ様」
「ありがとう、アルベラ。ところで、ひとつお願いしたい事があるんだ………今日の夜ひとりでボクの天幕に来てくれないかな」
ミナトがアルベラに耳打ちをすると、ポトリと何かが落ちる音がした。
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