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異世界ハーレムは義務です~0からはじめる建国物語~  作者: 碧い月


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王女と少女

「ふふっ、度重なる非礼申し訳ありません」


 厳粛さと気品を兼ね備えた王女は、ペコリと頭を下げると、顔を上げた時には見慣れた少女の顔に戻っていた。


「そんなことないよ。はっきり言ってくれてありがとう」


「本当にお優しいのですね。ですが、ミナト様、議論の途中で口を閉ざすのはお勧めいたしません。極めて乱暴な発想ではありますが、議論とは『負けを認めなければ引き分け』なのです」


「えっ!?でも、自分の間違いは認めないと相手に失礼なような………」


 いささか強引な論法に威を唱えると、目の前の少女の表情が再び王女のものへと変容する。


「お気持ちは分かりますが、国家同士のやり取りともなれば議論も戦争のようなもの。負けを認めれば失うものが大きくなる以上、少々旗色が悪かろうが強引に引き分けに持ち込み、小さな局地的勝利を偉業のように褒め称え、相手にはその一点をもって五分の条件を引き出す、そういった狡猾さが必要性となります。それに議論さえ続いていれば、致命的な争いは回避できるのです。全ての争いは対話を諦めた時に、引き返すことのできない地獄へと突き進むこととなるのですから」


 不意にシャルロッテの顔に影がさす。

 ミナトはこの年若い王女の過去に何があったのか聞こうと口を開きかけたが、すぐに考え直し、少し大袈裟にため息をついた。


「そうだね、シャルロッテの言う通りだ。やっぱりボクは全然ダメだなぁ………」


「そんなは事ありませんわ。ミナト様は舌戦により、既に一度大きな戦果を挙げられているではありませんか」


「ボクが?」


「ええ、建国に際してのジェベル王との討論は、王国中の者の口の端にのぼっております」


「あれは必死だっただけで、ボクは何にも」


 ミナトは王都での出来事を思い起こし、気恥ずかしさに顔を赤くする。

 広場に集まった民衆の歓喜の声、廷臣達の疑いの眼差し、威風あたりを払う王との討論………まだ数週間前の出来事であるのに、ミナトにとっては遠い昔の出来事のような、自分の知らない物語の中の話であるような、フワフワと実感のない話に感じられた。


「必死さだけでは人の心は動かせません。王や民を動かしたのはミナト様の言葉の力によるもの。ミナト様には人を惹きつける天性の力があります。その事をご自覚下さい。しかし、同時に言葉を武器として認識し、使いこなすことも覚えなければなりません。ミナト様の言葉は情緒的であり、弾むような生命力と未来を感じさせる躍動感と確信に満ち、聴く者の心を揺さぶります。それは一つの武器です。臣民であれば王への尊崇の念を深め、兵であれば喜んで死地に赴く者も多く現れるでしょう」


 シャルロッテは慎重に言葉を区切り、再び話し出した。


「しかし、理を求める者には響きません。特に商人のような利に聡い者は、理念ではなく実利を求め、ミナト様の言葉がどう自らの利益に繋がるかを秤にかけます。万を超える臣民を養うのであれば、海千山千の商人達を納得させるだけの『理』と『利』を持つ必要がございます。しかし、それは必ずしもミナト様自身が持つ必要のない武器です。王一人で戦地に向かうことがないように、王一人で交渉毎を全てこなす必要性はないのですから。利に聡くなれば、利を超えた言葉を失う事もあるでしょう。ミナト様はご自分の武器を専一に磨きながら、臣下に異なる武器を持つ者を集めなければならないのです」


「自分の強みを分析して、足りない部分は仲間に任せる。なんだか駆け出しの冒険者だった頃を思い出すよ。王様になってから焦ってばかりで、昔の自分がどんなだったか考える余裕も無かったな………大切なことを思い出させてくれて、ありがとう。シャルロッテ」


「礼には及びませんわ、妻として当然のことでございます。話をミナト様の問いに戻しますと、シンギフ王国には現状商人の目に魅力的に映るような目ぼしい資産はない、この認識は正しいかと思われます」


「やっぱり食料と交換できるような物はないよね………」


 ミナトは王都にある者を次々と思い浮かべ、ため息をつく。


「ですが、商人が欲するのは目に見える商品だけではありません。金貨や宝石よりも商人が欲するもの、それを材料とすれば相手はきっと交渉のテーブルに着くでしょう」


「商人が欲しがる目に見えない物?それって一体………」


 問いに対し、シャルロッテはミナトの瞳を見据え、距離をグッと縮める。

 吐息が互いの肌をくすぐり、睫毛の一本一本がはっきりと見える程の距離で、美しい唇がゆっくりと開く。


「それは………」


「それは?」


「秘密です」


 おでこをツンと突く指の感触に、ミナトは思わず仰け反る。


「甘いですわね、ここから先は料金が発生しますのよ。もし無料で知りたいという事であれば、ワタクシを正妻として頂けましたら、嫁入り道具として持参いたしますわ。………ですが、ワタクシが言わずとも、ミナト様であればきっと答えを見つけられるはずです。楽しみにしていますわ」


 そう言うシャルロッテの顔が王女のものであるのか、少女のものであるのか、この時のミナトにはまだ分からなかった。

面白かった、これからも読みたい、AI先生による絵が可愛いと思った方は是非、☆評価、ブックマーク、感想等をお願いいたします!!

基本毎日投稿する予定ですので、完結までお付き合い頂ければ幸いです。

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