瞬間、からだ重ねて
「……………」
「……………」
世界中から音が消え去ったかのような静けさのなか、二人は共にその静寂に更なる静寂を積み重ねていた。
(気まずい!!メチャクチャ気まずい!!深夜に女の子の部屋に呼ばれて、しかもベッドに一緒に腰掛けるとかそんな経験なんて………そうだ、似たような事がこの前あったばっかだっけ。いつもあんなに明るいシャルロッテも黙りこくってるし、ひょっとして緊張してたり………もしかして、本当にそういう事になるのを想像して怖がってるとか!?もしくは………)
ミナトは悟られないよう気を付けながら僅かに首を横に傾け、隣に腰掛けるシャルロッテを姿を盗み見る。
白くきめ細かな陶磁のような肌、金糸を思わせる煌めく髪。
手足は長くスラリと伸び、腰は折れそうなほどに細い。
けれどもその身体からは溢れんばかりの生命力が迸っており、そのことは彼女が風雨すら避けるような温室育ちの白百合ではなく、どれほど可憐であっても大地に根を下ろし自らの力でこの世界に咲く大輪の黄バラであることを示していた。
シャルロッテの美しい肢体は、いまたった一枚の薄く滑らかなネグリジェに包まれている。
肩には申し訳程度に薄手のケープが掛けられているが、側仕えの侍女以外に見せることのない姿であるがゆえに胸元は緩く、当人もそれを気にしているのか髪型を整える振りをしながら何度か服装を整えている。
鼻腔をくすぐる香水の匂いは否が応でも胸の奥にしまっている感情を刺激し、その感情は若い体を突き動かす。
ミナトはその衝動をしまいこむように、わざとゆっくりと座る位置を直すと大きく深呼吸をする。
「フローネさんはああ言ってたけど、二人きりだとどうしても緊張するね」
「ええ、そうですわね。殿方とこうして手の届く距離でいること自体初めてですので………ミナト様は随分落ち着いていらっしゃるように見えます。そうですわ、前にハーレムが云々と仰ってましたね………つまりリオ様やアルシェ様といったお付きの方々と既に何回も!?」
「いやいやいや、皆仲間だから!!そういう関係ではないからね!?」
「本当ですか?」
「うん」
「神に誓って?」
「誓うよ」
「ふふっ、では信じます。もし、もしですが、そういった事になりましたら、ワタクシだけ慣れておらず幻滅させることになったらと心配しておりましたの。ミナト様も同じでしたら、多少失敗しても恥ずかしくないですわね」
「ははっ、そうだね」
「………………」
「………………」
(いや、今の会話どういう意味!?シャルロッテ俯いちゃったし、えっ、何、反応間違えたかなボク!!どうしようどうしようどうしよう、会食以上に不味い展開な気が………男のボクがリードしないと。リード………違う違う!!さっきから何を考えても邪念がカットインしてきて………)
クイッ
ミナトの袖が微かな力で引っ張られる。
「シャルロッテ?」
「ミナト様、このようなことワタクシから言うのは、はしたないとは分かっております。ですが、どうしてもお願いしたいことがあるのです………………教えて頂けますか?」
ベッドが微かに軋み、二人の距離が縮まる。
小さな吐息が拳一個ぶん近くなり、互いの心臓の音が聞こえそうなほど密着していく。
「えっ………あっ…………」
ミナトは反射的に近づかれただけ離れようとする身体を押しとどめ、シャルロッテの鼓動を受け止める。
(いま彼女から離れたら後悔する、そんな気がするから………)
月明かりが作り出すシルエットが徐々に重なり、そして一つになる。
「ミナト様………」
「シャルロッテ………」
ミナトは目を瞑り、鼻先が触れそうなほどの距離にまで近づいたシャルロッテに自らの身体を預けようとする。
スカッ
聞こえるはずのない空振り音が脳内に響き、疑問に思ったミナトは目を開く。
グイッ
同時に掴まれる両手。
ミナトの頭上にいつもの特大クエスチョンマークが浮かぶ。
「ミナト様、教えてくださいまし、会食上での皆様の振る舞いにはどのような意図があったのでしょうか?不肖このワタクシの悪戯に対する罰でございましたら、甘んじてお受けしますわ」
潤んだシャルロッテの瞳に、ミナトはこみ上げる笑いを抑えきれず、クスリと笑みをこぼした。
面白かった、これからも読みたい、AI先生による絵が可愛いと思った方は是非、☆評価、ブックマーク、感想等をお願いいたします!!
基本毎日投稿する予定ですので、完結までお付き合い頂ければ幸いです。




