戦いを終えた戦士達
「はぁぁぁぉぁあああああ………………疲れ………疲れましたわ……………」
会食が終わり、シャルロッテは城内の自室に戻っていた。
身体全体に重く圧し掛かる疲労感と、重圧から解き放たれた昂揚感がないまぜとなり、ベッドに顔をうずめ、その柔らかな感触にただ身を委ねる。
「驚くほどなんの収穫もない会食ではありましたが、いまは無事生還なされた事をお喜び申し上げます」
「うぅっ、それは言わないお約束ですわ。リオ様がただ皿を3回まわして料理を下げさせた時には、何か失礼でもあったかと思い、冷や汗が出ましたの………」
シャルロッテはそう言ってから、閉じておきたかった記憶の蓋を開けてしまったことに気づいたのか、悶絶するように足をばたつかせる。
「ミナト様も何やら一家言ありそうな雰囲気で模様などをつぶさに観察されていましたが、ついぞ食器について何も言及されなかったので、結果的には謎の奇行でしかなかったですね」
「声が大きいですわ!!………奇行で思い出したわけではないのですが、皮だけを食べる珍しい料理だとあれだけ強調した後に全員中身だけ食べようとされていたのは、何だったのでしょうか」
「シャルロッテ様も奇行だとお思いだったんですよね、御自分だけ良い子であろうとするのは卑怯かと………。しかし、絶対肉を食べようとするだろうと先読みして、わざわざ中の肉を限界まで除去してほぼ空洞にするという職人芸まで披露したというのに、アルシェ様がなにもない空間を丁寧にナイフで切り取って口に運んでいるのを見た時は思わず手が震えました。本当の恐怖とはああいうものを言うのだと知れましたので、私にとっては一定の収穫はあったと訂正させて頂きます」
二人はアルシェの堂々とした立ち振る舞いを思い出し、身震いする。
「エルム様が純粋に料理を楽しんでくださったのが、せめてもの救いでしたの。ただ一口毎に『で~りしゃ~す』『あめ~じんぐ』『ふぁんた~すてぃっく』などと叫びながら、顔を真っ赤にしていたのが気にはなりましたが」
「その事は記憶の中だけに留め、二度と思い出さない事をお勧めします。特にご本人の前では口にしてはなりません、追い打ちは騎士道精神に反しますので」
「追い打ち!?ワタクシいまなにか失礼なことを申し上げましたの??」
「いえ、所詮作り物は本物には勝てないというだけの話です。さて、これにて両国間の会談は終了したわけですが、シャルロッテ様はご満足でいらっしゃいますか」
「満足なわけありませんわ!!ミナト様とはほとんど話せず仕舞い。王女として、同盟国の領主として、正妻として伝えたいことが山ほどございましたのに~~~~!!!!」
シャルロッテは真の意味でキングサイズのベッドの上を『む~!!』と子どものような声を上げながらローラーのようにコロコロと転がり回る。
「なるほど、ミナト様と話足りない、もっと話したい、そういう事ですね???」
「もちろんですわ~~~~~~~~」
シャルロッテはアリアを歌うように答えると、一層激しく身体を回転させる。
その行動はおよそ一国の王女として相応しくない稚気に満ちたものであったが、その事がかえって楽しいのか、今日一日のストレスと後悔を吐き出すように回り続ける。
「良かったです」
「なんの話ですの~~~???」
「こんな事もあろうかとミナト様をお呼びしておいて良かったという話です」
「きゃ~~~~~!!!ミナト様~~~~!!!!!…………………………フローネ、いまなんと??」
「ミナト様がいらっしゃっています」
「どこに??」
「ここに」
「……………………えっ」
シャルロッテは急ブレーキをかけるようにピタリと止まり、乱れきった髪と捲れあがった裾を直しながら、ゆっくりと身体を起こす。
「やぁ、こんばんは……………ゴメンね、夜遅くに」
ミナトはなるべくシャルロッテの姿を見ないよう視線を落としながら、消え入りそうな声で話しかける。
「い、いらっしゃいませ、ミナト様、お待ちしておりましたわ」
王女として発したシャルロッテの言葉はどこか上ずっており、急ごしらえで作ったすまし顔には隠しきれない動揺が浮かんでいた。
面白かった、これからも読みたい、AI先生による絵が可愛いと思った方は是非、☆評価、ブックマーク、感想等をお願いいたします!!
基本毎日投稿する予定ですので、完結までお付き合い頂ければ幸いです。




