マナーは戦争の形をしている
「ありがとう、アルシェ。せっかくシャルロッテが誘ってくれたんだから、快諾して当然だって頭では理解できてたんだけど、食事のマナーとか全然分かんないって思ったら身体が硬直しちゃって………情けないね」
シャルロッテ一行が会食の準備のため場を離れると、ミナト達は東屋に移動し今後の方策を練り始めた。
王として、為政者として………帝王教育を受け、その知識を領地経営において実践し繁栄に導いているシャルロッテに教えを乞うべき内容は、数えきれないほど存在する。
その事を考慮すれば今回の会食は千載一遇の好機であり、シャルロッテに問うべきシンギフ王国の課題について頭を悩ませるべきなのだが、ミナトの脳裏を占めるのは会食をどう乗り切るかという一事のみであり、それを片付けない限り他の事項に思考を割くことは出来そうもなかった。
「はぁ、そんなくだらないこと気にしてたの?王なんだから、もっと尊大なくらいに構えなさいよ」
「確かにミナト様は少々周囲の目を気にされ過ぎです。しかし、国家間の交渉においてマナーや作法と呼ばれる物が、しばしば重視されることもまた事実です」
「そうだよね………ボクが無知なせいで皆に恥をかかせたらゴメンね………」
ミナトは今日一番の特大の溜息をつき、肩をガックリと落とす。
「ミナト様、謝罪には及びません。国家とはひとつの生命体。互いに苦手な分野を補いあってこそ、共存共栄の道は開けるのです。御自身で解決出来ない難題が目の前に立ちはだかったのであれば、私達を頼ってください。ミナト様の手となり足となり、時に頭脳となることこそ、私達の役目なのですから」
「アルシェ………ありがとう、助けてくれるかな。でも、皆は宮廷料理のテーブルマナーなんて知ってるの?」
ミナトの素朴な問いにリオがいち早くサムズアップで答える。
「んっ、体感8割は理解してる」
「ふぇっ、8割も!?………ま、まぁ、私はジェベル式マナーはそこまで詳しくないけど、帝国魔法学院創設以来の天才として国の重臣から大貴族まで会食のお誘いはひっきりなしだったから、帝国式の作法であれば完璧よ。洗練された帝国式マナーで圧倒してあげるわ」
「圧倒はなんか違う気もするけど………頼りにするよ」
「ミナト様、これまで隠しておりまして恐縮ですが、私はデボラ様よりジェベル式宮廷料理のテーブルマナーを叩き込まれております」
「デボラさんがテーブルマナーを!?」
ミナトは普段のデボラの言動を思い返す。
「んっ、シンプルに失礼」
「あっ、いまの反応伝えないでね。でもデボラさんがテーブルマナーを知ってるって、正直ちょっと意外かも」
「驚かれる気持ちは分かりますが、デボラ様はオリハルコン級ながら実力は竜鱗級とまで評された冒険者。また我々混ざり者は世間からの好奇の間に打ち勝つため、自分を守る鎧として知識や技術を貪欲に求めるものです。恐らくはデボラ様も『冒険者の混ざり者がマナーを知るはずがない』という偏見に対抗するため必死に学ばれたのでしょう。そして私にもこの世界で戦うための武器として、その果実を分け与えて下さいました」
「そんな経緯があったんだ………」
「デボラ様に託された知識と想いは、片時も忘れたことはございません。今回の会食を成功のうちに終わらせるために、私もまた武器を手に取りましょう」
「ふふっ、面白くなってきたじゃない。あのお姫様は私達を田舎育ちの成り上がり者だと嘲りたいんでしょうけど、そうはいかないわ。この会食はテーブル上の戦争、相手の攻め手を全て潰して、無惨に白旗を上げさせようじゃない」
「いや、その発想は行き過ぎだからね!?シャルロッテはきっと好意で言ってくれてるから!!」
「私はエルム様の意見に賛成ですが、ミナト様のその人を信じる心も重要かと思います。相手を信じる、相手を打ちのめす、この二正面作戦で参りましょう」
ミナトは確信に満ちたアルシェの表情に、信じてる要素がどこにあるのかという当然のツッコミを飲み込む。
「会食とは思えない物々しさ。楽しくなってきた」
「三人寄れば文殊の知恵と申しますが、同時に船頭多くして船も山に登るとも言います。出されたお題について自信のある者がグラスを指で弾き、解答権を得ることとしましょう」
「なんか早押しクイズみたいになってない!?大丈夫なんだよね、信じるよ!!」
「はい、信じてください」
「………分かったよ。じゃあ、まず最初にすべき事を教えてくれるかい?」
「まず服を脱ぎます」
「了解、まず服だね………はいっ!?」
戸惑うミナトをアルシェはいつも通りの冷静さを宿した瞳で見つめていた。
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