シャルロッテの決意
ミナト達と別れてから数十分が経ち、シャルロッテはフローネを付き従え、居城の自室にて身支度を整えていた。
既にミナト達には別に人を遣わし会場まで案内させているため、後はホストであるシャルロッテの登場を待つばかりとなっている。
「シャルロッテ様、ミナト様の御様子から察するに………」
フローネがシャルロッテの美しい金糸のような髪を櫛で梳かしながら口を開く。
「みなまで言わなくとも分かっているわ。彷徨う視線、小刻みな震え、指先を擦り合わせる仕草、それらから導き出される答えは一つ………ワタクシがお食事に誘ったことを、しとねを共にしようというお誘いと勘違いされたのですわ!!もう、ミナト様ったら、心の底から肉食系!!食事終わりのスイーツ代わりに美味しく頂かれてしまいますわ〜〜〜!!」
「………私の前では真面目にやって頂けますか?」
「あうっ、目が怖いですわ、フローネ!!」
鏡越しに突き刺さる殺し屋のような視線に、シャルロッテは思わず目を瞑る。
「………ちゃんと理解しておりますとも。宮廷の作法やマナーは複雑怪奇にして曖昧模糊。幼少期から宮廷で暮らしている者ならともかく、市井で育ってきた方々にとっては最早恐怖の対象であると聞き及んでおります。ミナト様は元冒険者。リオ様やお付きのお二人もジェベル式に作法に精通しているわけではないでしょう」
「その通りです。ミナト様含め会食で恥をかかないようにと、さぞかし緊張されていることでしょう。儀するべき内容を相談すると仰っておりましたが、恐らくはこの状況を乗り切ることで頭が一杯かと」
二人がこうした会話をするのは今回が初めてではない。
第一王女という立場から、国内外の重要人物と会食を場を持つことの多いシャルロッテであるが、貴族相手であれば問題ないものの、官僚や商人、そしてミナトのように一代で成り上がった人物は宮廷式の作法を知らないことがほとんどである。
そして、そういった者ほど往々にして緊張から会話もままならないほどに委縮するか、逆に精神に鎧を着こむが如くマナーをしったかぶるのだ。
「安心してフローネ。そもそもマナーとは互いが気持ちよくコミュニケーションをとるために作られた仮初めのルールに過ぎません。会食において最も愚かなこと、それは相手のマナー違反をその場で指摘すること。もしワタクシがそういった素ぶりを見せるだけでもミナト様達は気後れし、本音で語り合うのは難しくなるでしょう」
「御賢察です。さっきのアホは何処に行ったのかと思うほどに」
「主人に対してアホアホ言い過ぎですわ!!………ともかく大丈夫です。例えミナト様達がどのような行動を取られても、ワタクシがそれに合わせればマナー違反をした者はいないという事になります。この会食を有意義なものにするためにも、両国の絆を一層深めるためにも………そしてミナト様の正妻として地位を確固たるものとするためにも、このシャルロッテ、ホストとして完璧な食事会にしてみますわ!!」
「そこまで気合が入っていると逆に不安になってきますが、ご武運をお祈りいたします。あと本人がいないところで正妻アピールは、最早気味が悪いだけなのでお止めになったほうが良いかと。それでは行きましょう」
シャルロッテはフローネを伴い会食の場に移動し、侍女が扉を開け、部屋のなかに入る。
そして出る。
「シャルロッテ様、どうなさったのですか?なぜいきなり上着を脱ぎ始めたのですか!?とうとう本当に頭がおかしくなったのですか!!」
自らの主人の突然の奇行にフローネが声を荒げる。
「………脱いでおりましたの」
「へっ?」
フローネは自らがあげた声が恐ろしく間の抜けた礼を失したものであることに気づきながらも、主人の発言への理解を優先するあまり、続く言葉を紡げずにいた。
「ミナト様達の上半身が下着姿に………いえ、極めて軽装になっておりましたので、ワタクシも合わせますわ」
「申し訳ありません、まったく事態が飲み込めないのですが」
「ワタクシも飲み込めておりませんわ。ですが、相手に合わせ、相互理解を深めることこそ真なるマナーの第一歩。シンギフ王国ではきっと食事の際には上着を脱ぐのがマナーなのです。ですから、シャルロッテもそういたします。異論はありませんわね」
シャルロッテの瞳には確固たる意志の炎が燃え盛り、自らを待ち受ける困難に立ち向かおうという決意が漲っていた。
「………これより発する言葉を今日という日まで定型句として口にしておりましたこと、心よりお詫びいたします。シャルロッテ様、ご武運をお祈りいたします」
シャルロッテはフローネの激励に軽く頬を緩ませると、再び戦場たる会食場へと戻っていった。
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