王女の悔恨
「今回、ワタクシ、王国に咲く一凛の黄バラことシャルロッテは、シンギフ王国御一行の歓待にあたり国王であるミナト様をはじめ、ご一緒にいらした皆様に不快な思いをさせてしまい深く謝罪致します。しかし、一般的にお姫様といえば何かにつけて囚われるものであり、そのイメージを逆手に取ったこの度のサプライズ演出は秀逸かつ爆笑必死の最高のエンターテイメントであり、理解できない方のセンスが問われている部分も否めないかと思います。よって、ここは一つ喧嘩両成敗という事で水に流して頂けないかと思っている所存でございます。ジェベル王国第一王女 世界のシャルロッテ」
「んっ、恒例の謝る気のない謝罪文」
シャルロッテは自身があつらえた舞台上に膝をつき、打ちひしがれたようにへたり込む。
「うぅっ、事前にフローネに相談して、最高のエンターテイメントを準備できたと確信しておりましたのに………」
ハンカチで涙を拭うようなポーズを取り、これみよがしに落ち込んでますとアピールするシャルロッテの姿は、ミナト達に寸劇が未だ続いているような感覚を覚えさせる。
「シャルロッテ様、その物言いですと私が共謀したかと誤解を与えかねませんので、やめて頂けますか?」
「ですが、フローネが殿方はサプライズが好きと………」
「確かに何度も何度もシャルロッテ様に『殿方はサプライズが好きですわね?』と問われたので面倒になり『嫌いではないかと思います』とは言いましたが、質が悪いドッキリを仕掛けろとは一言も言っておりません。なんなら、この馬鹿騒ぎの是非を相談されておりましたら即反対いたしましたので、次回以降は着想段階だけでなく実施計画の際にもお声がけ頂ければと思います」
主人に対して一歩も引かない自らの侍女に、シャルロッテは僅かに頬を膨らませこっそりと抗議の意を示す。
「ひょっとしたら、もしかして、ほんの少し皆様に不快な気持ちにさせてしまったとしたら、シャルロッテ一生の不覚ですわ………とは言いましても、本当はちょっぴりお楽しみ頂けたという理解で良いですか?」
「んっ、流石王族、鋼メンタル」
「そうでございますね、とても御心のこもった…チッ、刺激的で個性的でいらぬ波風を立てる……チッ、素晴らしいおもてなしだったかと思います………チッ。ちなみにこの舌打ちは言いたいことも言えない世の中に対して毒を吐きたい時に自然と出てくる獣人特有の癖ですので、お気になさらず…………チッ」
「すっごく気になりますわ!!あと毒を吐きたい時に出るということは、やっぱり怒っていらっしゃるんですね!?不肖シャルロッテなんとお詫びを申し上げてよいか………でも、女性陣はともかく、ミナト様は意外と楽しめたという可能性もありますわね??」
「嘘っ、まだ諦めてないの?なんなの、人間って庶民から王族までバカの博覧会でも開催してるの!?」
シャルロッテの不屈の精神にエルムが驚愕するなか、ミナトは顎に手を当て少し考えこむと、ゆっくりと口を開いた。
「そうだね、ボクもサプライズはどっちかというと好きだし、シャルロッテが目指してた方向性自体は好みかな。投獄、脱獄、逃亡、悲劇、感動の大団円って感じの進行は王道だし、コンセプトは良かったと思うよ」
ミナトが笑顔で答えるとシャルロッテの表情が一瞬パッと明るくなる。
「ただ………色んな要素を詰め込みたい気持ちが前に出過ぎて、ひとつひとつボク達の中でも消化してから進みたいエピソードが、咀嚼する前に滑っていった感じは否めないかな。超豪華料理が振る舞われたけど、次々と口に詰め込まれて味わうことも飲み込むことも出来ずに、気がつけば食事の時間が終わってたみたいな感覚だったよ。次回以降にこの反省を活かすなら、しっかりとエピソード毎に溜めの時間を作ること、起こってる事の解説役としてフローネさんを同行させて現場をコントロールすること、この二つかな。だけど、初めてのチャレンジでここまで出来たなら十分だと思うよ。次も頑張って」
「冷静に分析されるのもツラいですわ!!…………皆様が素直になれないだけの可能性に縋っておりましたが、本当にご心労だけかけてしまっていたのですね。ジェベルの王女として、一人の美少女として、ミナト様の正妻として、誠意をもって謝罪いたしますわ~~~!!!」
「まだふざける余裕は残ってるようですね………チッ」
シャルロッテは頭を下げながらもサラリと自身が正妻であることを強調すると、アルシェの眉間に一層深い皺が刻まれる。
「んっ、誠意とは金額」
「リオ、失礼だよ。ボク達はお願いに来たんだし、話を聞いてくれればそれでいいから」
「いえ、結果的に一国の王を謀ってしまったこと、言い訳のしようもない失態ですわ。己の不徳をただただ恥じいるばかり………ミナト様、なんでもいたします、許してくださいまし」
「えっ、いま『なんでも』って言った?」
ミナトの瞳から野獣の眼光が放たれる。
しかし、この時のシャルロッテは、まだその意味を理解できていなかった。
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