追手
「誤解です!!出してください!!………お〜い!!………………ダメだ、誰もいないみたいだ」
「んっ、正統派不当逮捕、謝罪と賠償を要求するチャンス」
「なにがチャンスよ!!こんなカビ臭いとこに閉じ込められて、服が汚れちゃうじゃない!!」
「エルム様の仰る通り、随分長い間使われていなかったようですね。それにしては掃除は行き届いておりますし、椅子やベットもあります。シーツも新品とまでは言いませんが、最近干されたばかりの匂いがします。まるで誰か高貴な身分の者を閉じ込めるために急拵えで整えたような………」
アルシェは薄暗い地下牢のなかを目を凝らし見回す。
「相続問題が拗れて幼少期から地下牢に囚われてる鉄仮面被った嫡子が出てくるパターン」
「………もしくは初めから私達を拘束するつもりだったという可能性もございます」
「そんな、何のために………」
ミナトが顎に手を当て考え込むと、地下牢に続く階段からコツリという足音が響いた。
「ミナト様、すべてはワタクシのせいなのです」
薄暗い地下牢がランタンの灯りに照らされる。
フードを目深に被り顔を隠している少女の正体をミナトは知っていた。
「シャルロッテ?どうしてこんな所に一人で………」
「ゆっくりと説明している暇はありませんわ。交代のため看守が離れている今が好機です。さぁ、早くこちらへ」
シャルロッテは錆びついた錠前を手にした鍵で開けると、なるべく音が鳴らないよう慎重に鉄格子に嵌められた扉を開ける。
「ありがとう………シャルロッテが一人でここに来たって事は、良くないことが起こってるんだね………」
「良くないこと………でございますか。お気遣い感謝いたしますわ。詳しくは申し上げられませんが、ジェベル王国は一枚岩ではなく、ワタクシの立場は麻のように脆いとだけ………事態は急を要します。コチラの隠し通路から外に出られます、ついてきてください」
牢番の詰所の脇にある物置の底板を外すと、更に地下に通じる道が現れる。
「こんな場所に隠し通路が………」
「ワタクシを含め数人しか知ることのない秘密の地下道でございます。見つかるまでしばらく時を稼げるはずです」
ミナト達は羊飼いに導かれる子羊のように、シャルロッテの後を追う。
無言のまま数分ほど歩くと、頭上からコツコツという足跡が無数に降り注ぎ、その振動で地下道の天井からはパラパラと土埃が落ちる。
「牢は空だぞ!!何処に逃げた!!」
上部を覆う石壁を通し、衛兵たちの会話が僅かに漏れ聞こえる。
「シャルロッテ様の行方も未だ不明です………もし、我々が先に発見した場合、どういたしますか?」
「………混乱に乗じて、賊徒が高貴なる御方を害することは珍しくない。この場で何が起きようとも、あのお方が賊の凶行として処理して下さることとなっているとのことだ………これ以上は言う必要はないな」
「………畏まりました」
数十の足音が頭上を通り過ぎると、静寂が訪れる。
「シャルロッテ、いまのは………」
ミナトの問いにシャルロッテは一度だけコクリと頷く。
「地下牢だ!!地下牢から続く抜け道があるぞ!!」
遠くから微かに聞こえる喧騒。
しかし、それはゆっくりと、だが確実にこちらに向かっていた。
「そんな、気づかれるのが早すぎますわ………まさかフローネが………」
シャルロッテが赤い唇を噛む。
「ミナト様、この地下道を真っすぐに進むと城の中庭に出られます。そこに信頼できる者を遣わしておりますので、案内に従ってください」
「………シャルロッテはどうする気なの」
「ワタクシは先ほど通過した別れ道まで戻り、追手を引きつけます」
「そんなっ!!一緒に逃げよう!!」
「嬉しいお言葉ですが、遠慮させていただきます。皆様を巻き込むような事態となったのはワタクシの不徳の致すところですわ。全ての行動には責任が伴います。ワタクシがこの騒動の発端である以上、自らの責務から逃げるわけにはまいりません。ふふっ、そんな心配そうな顔をしないでください。こう見えて逃げ足は速いほうですの。大丈夫ですワタクシは掴まりません。またすぐにお会いできます。それまでしばしのお別れですわ」
シャルロッテは硬い笑みをミナトに向け、地下道を引き返していく。
「シャルロッテ!!」
「ミナト様、いまはシャルロッテ様を信じて先を急ぎましょう。我々まで再び囚われればシャルロッテ様を救える人間はいません。一刻も早く脱出し、捲土重来を期すべきです」
「そうよ、ジェベル王国のお家騒動に巻き込まれて私達が怪我でもすることになれば国交断絶、最悪戦争に繋がりかねないわ。私達は無傷でここから逃げる必要があるの」
「………分かったよ、絶対に逃げ延びよう」
「んっ、多分あそこがお姫様の言ってた中庭に繋がる扉。開ける」
リオが扉に手をかけゆっくりと押し開けると、眩いばかりの光が隙間から差し込み、ミナトは思わず目を細める。
世界から音が消え去ったかのような静けさが辺りを覆い、ミナトの心が言い知れぬ不安にざわめく。
言葉に出来ない焦燥感に駆られ扉の外に出たミナトを待ち受けていたのは、想像もしえない光景だった。
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