投獄
「ここがシャルロッテの所領最大の都市ターントゥ………カラムーンで大都市は見慣れてるつもりだったけど、ひょっとしたらそれ以上かも」
ミナトは眼前にそびえる城壁に思わず感嘆する。
クームフェルドが仲間になってから1週間が経ち、ミナト達はシャルロッテと会談の場を持つため、ジェベル王国北部有数の大都市であるターントゥを訪れていた。
メンバーはミナト、リオ、アルシェ、エルムの4名。
デボラは王都防衛の要として、クーは排水管理の陣頭指揮を執るため、そしてルーナはお昼寝担当官として『覇王都NOBUNAGA』に残っている。
王領である要塞都市カロ、交易都市カラムーンと異なり、純然たる貴族領であるターントゥはミナトにとって馴染みの薄いものであったが、噂に聞いてきた威容を目の当たりにすることで、改めてシャルロッテが第一王女にしてジェベル王国屈指の大貴族である現実を突きつけられていた。
(シャルロッテは初めて王族に会うボクが委縮しないように、敢えてちょっと変わった形で接触してくれたんだろうな………多分)
「なかなか立派な都市じゃない。ちょうどいいわ、お姫様に言って、ココをシンギフ王国の王都にしましょう。わざわざ一から街づくりをするより手っ取り早いわ、いいアイデアじゃない?」
「んっ、歩く国際問題」
「誰が歩く国際問題よ!!」
「エルム、冗談だとは思うけど、城内に入ったら絶対そういう事は言っちゃダメだからね」
ミナト達は城門の前で馬を降り、衛兵の前に歩み出る。
「通行許可証を」
衛兵は怪しげな来訪者に表情を硬くし、やや居丈高な物言いで許可証の提示を求める。
「通行許可証ではないんですが、こちらが代わりになるかと思います」
ミナトはアルベラから預かった書状の封を解き、衛兵に差し出す。
「これはなんだ?通行許可証がなければ門を通すことはまかりまらん。帰れ帰れ」
衛兵は書状に目を通すことなく、虫でも払うかのような仕草でミナト達を追い払おうとする。
「ちょっと、待ちなさいよ!!私達を誰だと思ってるの!?シンギフ王国の国王ミナトと神代のエルフにして魔法尚書のエルム様、そしてその従者よ。シャルロッテとかいうお姫様に招かれてわざわざ来てあげたのに、たかだか門番如きが行く手を遮ったことで私達が怒って帰ったとしたら、貴方達は責任が取れるのかしら?ふふっ、自分のしでかした過ちに気づいたようね。分かったならさっさと通しなさい」
「………シンギフ王国?お前知ってるか?」
「知らん、子どものごっこ遊びだろう。よく見ると、立派な馬には乗っているがどう見ても子どもだ。特にあのちびっ子はエルフの仮装までしてるぞ。恐らく何処かの貴族の御子息様のお遊びだろう」
「しかし、子どもならこのまま帰すのは危ないな。カロの陥落以降ターントゥ周辺でも亜人や魔物の姿を見かけるという情報もあがっている。とりあえず今日の所は詰所に泊めて、巡視が戻り次第領地まで送り届けさせよう。大人しく家が何処か言うといいんだが………」
衛兵たちはエルムを横目でチラチラと窺いながら、あれこれと計画を立てている。
「何よ、どこをどう見たら私が子どもに見えるのよ!!」
「顔、身長、性格、声、あと胸。どこを切ってもお子ちゃまな金太郎飴系女児」
「しかし、困りましたね。このまま中に入れませんでした、では本当に子どもの使いになってしまいます………」
「そうだね、何か一目でシャルロッテとの関係が分かる物があるといいんだけど………あっ、そうだ、アレが使えるかも!!」
ミナトは馬に積んだ荷から一枚の旗を取り出し、衛兵の前で広げる。
「そ、それは………クルブレール侯爵の紋章旗!!シャルロッテ様しか掲げることの出来ない旗を何故お前達が………」
「おいっ、これは偽物じゃないぞ、本物だ。という事はこいつ等は………隊長を呼べ!!」
衛兵達がバタバタと走り出し、奥から隊長と思しき騎士が現れ、ミナト達の前に整列する。
「ふふっ、やっと自分たちの立場が分かったみたいね。まっ、しょせん愚かな人間だもの、今回みたいな下らない間違いを犯すだろうことは最初から織り込み済みよ。さっ、早くお姫様の元に案内しなさい。晩餐会の料理が冷めちゃうわ」
エルムがサラリと髪をかきあげ門をくぐると、その手首には鉄の枷が嵌められそのまま鉄格子付きの厳めしい馬車に乗せられる。
「………ふぇっ!?」
「畏れ多くもジェベル王国第一王女シャルロッテ様の御旗を盗み、悪びれもせず謁見を乞う大罪人め!!子どもとて容赦は出来ぬ、この者どもを牢にぶち込んでおけ!!己が過ちを認め、罪を謝すまで牢から一歩たりとて出ることは許さん!!」
流れるような手際の良さを枷に繋がれ、馬車で移送されたミナト達が見たものは、時に忘れられたかのように古び、今にも朽ち果てそうな地下牢だった。
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