神話合体
「それじゃ、今日の会議はこれで終わりでいいかな」
ミナトが晴れ晴れとした表情で会議の終わりを告げる。
「どっと疲れたけど、顔合わせが目的だし構わないわ。そうだ、最後にひとつだけ。そろそろお姫様のところに行くんでしょ、その人選を考えておいて」
「シャルロッテに食糧の事を頼まなきゃだもんね」
「相手は王女、ミナトは国王。立場的にはこっちが上だといっても、実質的な力関係と会談の内容を考えるとミナト自ら出向かざるを得ないわ。先日の返礼の意味もあるしね」
アルベラは右手で天幕に備え付けられた調度品を指さしていく。
天幕からテーブル、椅子に食器に至るまでこの場にあるものは全てシャルロッテ、つまりはジェベル王国からの進物である。
そのことは何よりも雄弁にシンギフ王国とジェベル王国の力の差を表していた。
「日程諸々細かいことはワタシの方で手配しておくから、頼んだわよ。ミナトなら大丈夫だとは思うけど、キャンキャン吠える躾の悪いのを首輪なしで連れてって交渉決裂とか笑えないしね」
「そうよ、相応しい人物に相応しい立場を与えることが為政者において一番重要なの。まっ、そこのデカ女とか連れていったら破談になっちゃいそうだし、相手がお姫様だって言うならそれ以上に高貴な身分である私が行ってあげてもいいわよ」
「はぁ、この国にはまともに皮肉が通じる人間はいないのかしら………ミナト、もう一度いうけど、人選だけは気を付けてね」
「ははっ、胸に刻んでおくよ。ところでアルベラは行かないの?」
「野暮用があってね、今回もパスよ。ワタシ達が不在にしている間、王都はエッダに任せておくわ」
「そっか、一度アルベラも合わせたかったな。また今度頼むよ」
ミナトの発言にアルベラは投げキッスで返答する。
「できた〜」
弛緩した空気のなか、更に力が抜けるようなルーナの声が響く。
「んっ、唐突」
「出来たってまた神話か?」
「せいかい〜。今回は二つの事件を合体してみたよ~」
「へぇ、ちょうど会議が終わったところだし、エルムとクーにもルーナの特技を知っておいて欲しいから、是非聞かせてよ」
「なになになに、何が始まるんだよぉ」
「合体!?事件!!??まさか、ここにいる全員で、くんずほぐれつあんなことやこんなことを!!!???スライムっ子はそういう用途のために!!!!????とうとう本性を現したわね、この全身海綿体!!!!!!!」
「………ルーナ、お願いね」
『シンギフ王国歴元年、とある初冬の日のこと。
英雄王ミナトは、臣民からの嘆願をうけ悪辣なる小鬼の王が住まうという洞窟に足を踏み入れると、耳の長い少女が囚われているのを見つけ、それを哀れに思い王自ら縄を解いた。
しかし、それは闇の魔導士の狡猾なる罠であった。
暗黒魔法により異空と繋げられし洞窟は、王が三日三晩歩き続けてもなお終わりを見せることなく、無限を思わせた。
永遠に続く回廊に耳の長い少女が涙を流し『王を罠にかければ褒美をやると言われたのです』と王に謝した。
王はその言葉を聞くと『だから罠にかかったのだ』と大笑いし、少女の頭を撫でた。
すると、少女の影から魔導士が化けた黒龍が現れ『更なる無限をくれてやろう』と王を洞窟に連なる湖の底に幽閉し、一匹のスライムを見張りにつけた。
無限の底に押し込められなお平静を失わぬ王を見て、スライムが『貴方様は何を知っているのか』と恭しく問うと、王は『無限とは有限なることを知る』とだけ答え、水を一掬いし口に含んだ。
はたして、無限と思われた湖の牢は砂上の楼閣であり、目覚めた王の前にいたのは先ほどの耳の長い少女であった。
王の豪胆と知恵にこは敵わぬと見た耳の長い少女は地に額を付け平伏し、許しを得んとあらゆる言葉を尽くした。
王はその言葉の長きに閉口し、『げに無限より有限の恐ろしきかな』と嘆息することで、廷臣たちを大いに笑わせた。
以降、耳の長い少女は王の威光に心を改め、言葉を操るスライムと共に末永く国を支えたという。
シンギフ王国史Ⅲ~耳長き魔導士と黒き竜~ 著・クライ=シュ=ルーナ』
「んっ、ほぼ史実」
「どこが史実よ!!神代のエルフたる私が悪者じゃない!?」
「完璧に解釈一致」
「まぁまぁ、最後には丸く収まったのは現実と一緒だし、これからも末永くよろしくね、エルム、クー」
ミナトはその後も延々と文句を言い続けるエルムと、それを珍妙な生き物で見るかのような目で観察するクーに対しとびきりの笑顔を向けた。
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