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蠱惑

 土埃が緑の平原に降り注ぐ。


 先ほどまでの喧騒は静寂に席を譲り、ただパラパラと雪のように落ちゆく細かな土の粒子だけが、戦いの存在を示していた。


「あらっ、手加減したつもりだったけど、笑ったせいで調整を誤ったみたい。ミナトは………生きてないわよね、この有様じゃ。せっかく可愛い玩具が見つかったと思ったのに、残念」


「んっ、安心していい。ミナトはビンビン………違った、ピンピンしてる」


 あるはずのない光景にアルベラが目を見開く。


「………生きてる」


 ミナトが理解を超えた出来事にただ戸惑っていると、少女は土埃で汚れた少年の顔を服の袖で拭う。


「言った、ミナトは私が守る」


「まさかとは思うけどワタシの一撃を防いだわけ?………もう一度聞くわ、貴方何者」


「リオ。ミナトの夢を叶える、可憐で物憂げでミステリアスでプリティーさも兼ね備える超絶天才パーフェクト美少女。そっちの番はもう終わり?ならコッチから行く」


 アルベラの視界からリオが消える。


「転移魔法っ!?」


「違う、徒歩。お散歩気分」


「なっ………」


 懐に潜り込んだリオは、反応が追いつかないアルベラをからかうように両手の人差し指で自分の口の端を引っ張り一通り変顔をし、体勢を整えたアルベラが大鎌を振り下ろす前に再び姿を消した。


「クソがぁっ!!随分と舐め腐った真似をするじゃない………」


「んっ、強者の余裕。バトルはメンタメが基本」


「それには同意するけど、少しワタシを怒らせすぎたわね。まさか、さっき一撃がワタシの本気だと思ってる?………図星みたいね。冥土の土産に良いことを教えてあげる」


「んっ、貰っとく」


「ワタシを含めた六大魔公は、神代からこの世界を支配し続けてきた『始原の民』の生き残り。貴方達のように始原の民を真似て作られた劣等種とは違う、始祖なる神の血を分け与えられし至高の存在。言ってしまえば、これは神と人との戦い。勝敗は明らかでしょ?」


「んっ、ちょっと何言ってるか分かんない。つまり、六大魔公はレアってことでいい?」


「あら、劣等種には難しすぎたかしら。貴方達が粗悪な量産品だとしたなら、ワタシは始祖自ら神性を注ぎ込みこの世界に召喚された一点物の傑作。同族はなく、この世界にワタシのみが君臨する、選ばれし者」


「激レアってことは理解した。ハーレム第一号決定。捕獲する」


「何も理解できてないわね………貴方は死ぬのよ!!いま、ここで!!!始祖なる神よ、至尊にして唯一の御名を以って、世界に滅びを与え賜え」


 あらゆる景色が冥王の大鎌に吸い込まれるかのように歪んでいく。


 草木が捻れ、風が捻れ、大気が捻れ、時空が捻れる。


 この世界の全てが冥王の大鎌に集約され、膨れ上がり、限界へと歩を進める。


「今度こそさようなね、神位『断空極破斬』」


 世界が黒く塗りつぶされていく。


 人も草木も大気も石ころでさえ、等しく死に塗り潰される。


 約束された結末、定められた死。


「………これが六大魔公の力よ」


 崩壊し、虚空に侵食されていく無人の荒野に向け、アルベラが吐き捨てる。


「んっ、なかなかの威力。流石ウルトラレア、ハーレム第一号、合格」


「………え、あっ………な、なんで?だって、今たしかに………………」


 全ての飲み込んだはずの闇は、リオとミナトの周囲で何かに阻まれているかのようにピタリと止まり、リオは午後の陽だまりのなか小路を散策するかのような気軽さで、アルベラへと近づく。


「来ないで………近づいたらミナトを殺すわよ!!いいの!?」


 懇願にも似た叫びを無視して、リオはゆっくりと、しかし確実に距離を縮めていく。


「くっ!!」


 アルベラが肉体を霧へと変え、逃亡を図る。


「捕まえた」


「なっ!?」


 霧となり、大気に紛れたアルベラの肉体は、空間ごとリオにグイと握られ、引きずり下ろされた。


「こ、これで私に勝ったつもり?甘いわね、六大魔公と人、神と紛い物の差を知らないのね。神の祝福を受けた武器が無ければ、ワタシにかすり傷すら負わせる事は出来ないわ。貴方のその剣、どれだけ切れ味が鋭かろうが、所詮はただの業物。神器ではないでしょ?」


「確かめる」


 リオはアルベラに馬乗りになり、剣を大きく開いた胸元に突き立てる。


 しかし、アルベラの言葉通り、その切先は皮膚を切り裂くことは出来ず、幾度か試行するものの傷を与える事は出来ない。


「ふっ、ふふふっ、分かったでしょ?ワタシに勝てないことが。このまま時が過ぎれば、只人である貴方は疲弊し、死ぬことになるわ」


 勝利を確信したかのような微笑み。


「ようやく自分の立場が分かってきたようね。いいわ、寛大なアルベラ様が貴方にとっておきの提案をしてあげる」


 アルベラは下から手を伸ばし、馬乗りになったリオの頬を撫で、首筋に指を這わせる。


「ワタシの配下になりなさい。貴方は殺すには惜しい力を持っているわ。もちろんミナトも一緒よ。ワタシが世界を支配した暁には、国を作ることだって認めてあげる。ハーレムだって何だって思いのまま。ワタシの目的は達成され、貴方達の夢は叶う。お互いの利益を考えれば、これ以上に魅力的な提案はないと思うけど?」


 その言葉はどこか蠱惑的な音色を持っていた。

面白かった、これからも読みたい、AI先生による絵が可愛いと思った方は是非、☆評価、ブックマーク、感想等をお願いいたします!!

基本毎日投稿する予定ですので、完結までお付き合い頂ければ幸いです。

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