スライム狩り
「………ミナト様、死な……でくだ………」
「生き………おね………」
耳元で2つの声が交互に響き合う。
(あれ、このパターンは………………ボクまた死にかかってる!?)
ミナトは鉛のように重い身体を僅かに起こし、必死に声をかける2つの影に『大丈夫だよ』と返答しようとするが、気道に何かが詰まっているかのように僅かな声すら出すことが出来ず、代わりに指先を動かす。
(どうして、こんな事になってるんだっけ………ボクはたしか………)
「ミナト………ミナト、聞いてる?」
「えっ、あっ………ここは?」
肩をゆすられた振動でミナトが目を覚ます。
「だいぶお疲れのようね、後の事はワタシ達でやっておくから、部屋に戻って休んだら?」
(アルベラに皆………そっか、ボクは洞窟での出来事を報告してたんだ。それから不在の間に溜まった問題をアルベラから教えてもらって………)
ミナトは未だに霞がかかったように薄ぼんやりとした脳に空気を送りこむべく、大きく息を吸う。
「大丈夫だよ、ゴメンね。食料の話だっけ」
「そうよ、焼け落ちた村から回収できた小麦なんかを含めても、1ヶ月もすると底をつくわね。まだ少し時間に余裕はあるけど、買い付けるにしても交渉で譲り受けるにしても、近々に対応する必要があるわ」
アルベラは手に持った帳簿らしき書類をペラペラとめくり、唇に指を当てる。
「ボクがシャルロッテにお願いに行ってみるよ。リオのおかげで珍しいお土産もあるしね。他に心配事はある?」
「問題だらけだけど、強いて一つ挙げるとすると、スライムが足りないわ」
「んっ、その通り。ミナトが酒池肉林のスライムプレイするためのネバネバ要因が足りない。喫緊の課題」
「いや、しないからね、そんな事!!」
「汚水処理のためのスライムよ。ワタシ達だけなら自然の摂理に任せてとも考えてたけど、人に馬にと考えると1箇所に流し込んでスライムで処理した方がいいわ」
「まっ、それが妥当だな。スライム狩りは勘弁だけどよ」
デボラのスライム狩りと言う言葉にミナトは苦笑いを浮かべる。
この世界において水資源の浄化にスライムを使うのはごくありふれた手法であり、大規模な都市であれば沈殿槽に有機物を分解させるスライムを住まわせるタイプの汚水処理場を幾つも有しているのが普通である。
下肥は一般的ではなく、ミナト自身もその制作過程に詳しくない事もあって、肥溜めを設けようと言った発言をすることはなかった。
「そんなの全部湖に流せばOK。湖から水を汲んで、湖に汚水を流す。理想的キャッチアンドリリース」
「ダメだよ〜、そんなことしたら泳げなくなっちゃう〜」
湖が汚水にまみれる光景を想像したのか、ルーナは首のかわりに尻尾をブンブンと振り、反対の意を示す。
「泳ぐ泳がないは別にしても、そんな水を飲むのはワタシはゴメンだわ。でも、これはそんなに急ぎじゃないから、おいおい片付けましょう」
「そうです、ミナト様は度重なる戦いで心身共にお疲れになられています。休息が必要です」
ミナトの肩に薄手のブランケットがかけられる。
「ありがとう、アルシェ。ボクがいない間、睡眠を削って待ってくれてたって聞いたよ。アルシェもゆっくり休んで」
「はい、お言葉に甘えて休ませて頂きます。ミナト様の寝所に伺ってもお邪魔なだけのようですし、何よりお疲れのはずのミナト様はまた新しい女性をお持ち帰りになられたうえ、先ほど白昼堂々服に手を入れまさぐる等々、とてもお楽しみだったと伺っていますので、それはもう私が出る幕は微塵も欠片ほども無いかと思います」
アルシェは一切表情を崩さず、機械が予め用意された原稿を読み上げるような平坦なリズムでそう言うと、ミナトに向かい深々と一礼をしてその場を去ろうとする。
「えっ、あっ、それは誤解………でも、ないんだけど………。そうだ、アルベラ、スライム問題はボクに任せてよ!!スライム狩りにはちょっと自信があるんだ、休暇のついでにちょうど良いよ。アルシェ、もし良かったら一緒に来てくれないかな!!ほらっ、この季節のスライム狩りは暖を取らないと厳しいから、出先でアルシェの手料理が食べたいと思ってさ」
「………かしこまりました、そう言った要件でしたら、お供させていただきます」
変わらぬ真顔で返すアルシェにミナトはホッとしたような笑みを浮かべ、額に滲む汗を拭った。
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スライム狩り編開幕!!
今回は短めの話になるかと思うので、1週間くらいで終わる予定です(多分)




