肌を伝うモノ
「もう終わり?まだ話し足りないけど、一度に教えても人の小さい脳みそじゃ、限度があるものね。名酒も盃より多くは注げないって言うし、今日はここまでにしてあげるわ」
「長々と説明してもらっておいて悪いんだけどよ、結局は魔法体系の違いって奴は使う側の問題で、オレらには関係ねえし、知識として持ってても役に立たねえわけか」
「何よ、全然理解できてないのね。関係大有りよ。例えば相手が精霊魔法の使い手なら、周辺環境に合っていない魔法を使う可能性は極めて低いわ。精霊魔法の本質が『勧誘』である以上、氷雪地帯で炎魔法を使おうとしても、精霊がボイコットして言うこと聞かないもの。逆に古代魔法の使い手であれば『契約』だから炎魔法を行使できる。神聖魔法なら環境よりも、その神が奉じる教義によって使える魔法も限られる。知識があれば、警戒すべき魔法も分かるし、相手の戦力も推測出来るのよ。まっ、知能のない魔物が相手の冒険者風情なら不必要な知識と言えるかもね」
「………リオ、そのちびっ子捕まえとけ」
「捕獲」
リオが背後からがっちりとエルムを羽交い絞めにすると、デボラはキョロキョロと周囲を見回し大岩を見つけ、片手でひょいとひっくり返す。
「な、なによ、自分の無教養を棚に上げて、暴力でうさを晴らそうって言うの!?本当に人間って野蛮で下等だわ、暴力なんかに屈しな………えっ、ちょっと、何それ………」
視線の先には大岩の下で蠢く様々な虫を鷲掴みにし、ニタリと笑みを浮かべるデボラ。
「いと尊き神代のエルフ様にも、下等生物の気持ちを味わって頂こうと思ってな」
「ちょ、ちょっと、冗談でしょ!?や、やめっ、アーーーーーーーーッ!!!!!!」
自身の顔ほどもある大きな手に握られた幾多の虫が胸元から放り込まれ、エルムの絶叫が周囲に轟く。
「キャアアアアッ!!!!!虫、虫ィ!!!取って、取ってよぉ!!!!!」
「ったく、オレらだからこんなもんで済んでるが、相手によっちゃ虫が刃物に変わっても文句は言えねえぞ。これに懲りたら、ちったぁ口の利き方に気をつけるんだな」
デボラはそれだけを言うと大きく伸びをし、その場を後にした。
「どこ行くのよ、謝るからとにかく何とかしてよ、これ!!!キャアアアアアアアッ!!!!!」
身体を拘束されながらも、エルムの悲鳴は一層激しさを増す。
「リオ、もう反省したと思うし、離してあげて」
「解放する」
「取ってよぉ!!!早くぅ!!!!!!」
「ははっ、リオ取ってあげて」
「んっ、無理。虫さわれない。正直この状況にもかなり引いてる」
「えっ?じゃあ、どうするの、これ」
服の中でモゾモゾと動く感触にエルムの瞳には溢れんばかりの涙がたまり、今にも堰を切り流れ落ちようとしている。
「ミナト、ファイト」
「えっ、ボク!?だけど、それはちょっと世間体的に不味いような………」
「良いから、早くして!!下の方にも来てるから!!早く!!!!」
虫から逃れるように身をくねらせるエルムの姿を見て、ミナトは意を決し服のなかに手をつっこむ。
ミナトの指先がエルムの薄い身体を這い、硬いものを摘まみ上げる。
「ンンッ、アッッ…………ど、どこ触ってんのよ、変質者!!!!!」
小さな平手がミナトの頬を打つ。
響く悲鳴、轟く罵声、鳴る平手。
エルムの声帯と、ミナトの忍耐を限界まで酷使した死闘は、数分に及び、やがて終わりを告げた。
「いたたっ………大丈夫、エルム、落ち着いた?」
「え、ええ…………少しだけ取り乱したみたいね、謝罪するわ」
ミナトの頬についた真っ赤な跡を目にし、エルムはばつが悪そうに俯く。
「ボクのことは気にしないで。………エルム、シンギフ王国に来てくれてありがとう。噂でしか知らないけど、帝国魔法学院って一部の天才と呼ばれるような魔法詠唱者しか入れない超名門なんだよね。ここから帝国は近いとは言っても気軽に行き来できる距離じゃないし、ここにかかりきりになると学院には通えないと思うけど、本当にいいの?」
「………いいわよ、あんなとこ。私にとってはレベルが低すぎるくらいだし、いる意味もないから」
エルムは視線を外したまま、呟くように答える。
「でも友達にお別れする時間もないのは申し訳ないよ。一度戻って、色々整理してからでもボク達は大丈夫だから」
「必要はないわ。私はお遊びのために学院にいたわけじゃないもの。私の能力でこの国を世界一の魔法大国にするんだから、過去にこだわってる暇なんてない」
「………エルムは強いね」
「ほ、褒めても何も出ないわよ。まっ、まさか、私を持ち上げるだけ持ち上げて、後からヨイショ代を身体で払えって言うんじゃないでしょうね!?そうなのね、通りでさっき私の身体をまさぐるときに野獣の眼光をしてると思ったわ!!ひょっとして、さっきのもハプニングじゃなくて、計画的に………本性を現したわね、この変態大王ッ!!!」
エルムが胸を抑えながら叫ぶと、ミナトはハハッと小さく笑い声をあげる。
「な、なによっ!!なにが可笑しいの!!」
「ううん、気にしないで。これからよろしくね、エルム。頼りにしてる」
「そ、そう。私こそ、よろしく」
エルムは差し出された手に遠慮がちに自らの手を重ね、一度だけコクリと頷いた。
【シンギフ王国暦元年 11月13日】
人口=154人(うちハーレム構成員6人)
種族=6種(人間、悪魔【六大魔公】、獣人【ハーフ】、巨人【ハーフ】、ナーガ、エルフ【純血種】)
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基本毎日投稿する予定ですので、完結までお付き合い頂ければ幸いです。
長くなりましたがエルム加入編はこれにて終了!!
次回、新たな仲間の影が!!乞う、ご期待!!




