もう一つの異世界
「何でもありの酷いチート。そのうち運営から下方修正が入るはず」
「どうせ何か制限があんだろ」
疑いの視線にエルムがムッと口を尖らせる。
「うるさいわね、続けるわよ。無限から自由自在に力を取り出し、自分のイメージする形に再構成して魔法として放つ。真言魔法は、威力、効果、タイミング、すべてにおいて無限の可能性を持つ完璧で究極な魔法と言えるわ。ただ、最強ゆえに使い手には極めて高い能力、そして何より異世界を認知する事ができる百万に一人の才能が必要となるの」
「ごく限られた一部の種族とか、後の世で英雄と呼ばれる人間しか使えないんだよね」
ミナトの知る限り真言を用いるとされる種族は片手で数えられる程であり、人の身でその領域に到達したとされる者は漏れなく『神託の〇〇』という尊称を持って語られる英雄であった。
「そうよ、人間にしては分かってるじゃない。よく神代のエルフなら全員が真言魔法を使えるって噂があるけど、あれは真実だけど嘘。神代のエルフは確かに等しく真言魔法が使えるわ。だけど神代のエルフだって自称してる者の99%は偽物だし、真言魔法も使えないの」
「とうとう神代神代詐欺まで………異世界、恐ろしい子」
「いま世界に始祖自ら生み出した神代のエルフの純粋な子孫は、世界に百もいないわ。なぜ分かるかって?それは簡単な話。真の神代のエルフは、祖先の記憶の一部を生まれながらに共有してるの。そしてお互いの存在を朧気ながらだけど、感じることが出来る。たとえどれだけ離れていてもね」
「んっ、じゃあ、一番近くにいる神代のエルフはどこら辺に住んでる?」
「えっ、あっ、そ、それは………コッチにずっと行った所にいるわ。徒歩で1ヶ月位かかるくらい遠くに」
太陽が輝く方角をさすエルムの指先は酔客のようにフラフラと定まず、微弱な電波を拾おうとするように絶え間なく動いている。
「ミナト、噂の偽物みつけた」
「仕方ないでしょ、なんとなく気配感じる位なんだから!!近くまで行けば一発よ!!………多分」
「『今は無理、次は大丈夫』は詐欺師の常套手段。無理なタイプのエルフじゃなくて、捕まってないだけの半グレ系エルフだった」
「リオ、あんまり虐めないであげてよ。エルム、祖先の記憶を辿れるって話し、例えば神話の時代の話も分かるの?始祖の姿とかも記憶に残ってたり………」
神代のエルフの寿命は一説に千年とも言われる。
その祖先ともなれば数千年、数万年の時を遡ることが出来ても不思議ではない。それは最早歴史を超え神話の時代の物語であり、知りえるはずのない遠い過去の微かな香りにミナトは心を踊らせる。
「一部って言ったでしょ。いまの私が見れるのは真言魔法にまつわる歴史と、過去の偉大な魔法詠唱者が真言をどう理解し、どう使ってきたかって事だけ。だから誰に教わらなくても真言を理解できる」
「そっか、そうだよね、簡単に過去の事が分かれば苦労しないよね。神様がどんな姿をしてるとか知りたかったんだけど、無理な話だよね」
ミナトはガックリと肩を落とす。
「ま、まあ、もっと歳を重ねれば、より多くの記憶を呼び覚ますことが出来ると言われているわ。この世界の真理、もう一つの異世界、そこから来る転生者達、いつかはそういう謎にも触れられるんじゃないかしら」
「もう一つの異世界?」
「そう、知らないの?魔法の根源たる無限の世界の他にも、私達の世界と繋がる『もう一つの異世界』があるって言われているのよ。眉唾だけどね」
「エルム、それって………」
「んっ、タイムオーバー。国王は多忙。そろそろお開きの時間」
問いを遮るようにリオがパンパンと二度手を打つ。
ミナトは再び口を開こうとしたが、言葉を呑み込むように立ち上がり、服についた埃をはらった。
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ようやく魔法講座終了です!!




