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エルム先生の魔法講座

 エルムが詠唱を終えると、周囲に黒や紫に輝く花びらが舞い、幻想的な光が満ちては消えていく。


「エルム、これは………?」


 やがて光は全て消え去り、再び冬の澄み切った陽の光が地面に降り注ぐ。


「………じゃあ、説明を始めるわよ」


「いや、いまの魔法なんだったの!?」


「雰囲気作りよ、いいから黙って聞いてなさい!!………貴方達の認識では数時間の出来事だったのに現実では5日も経っていた、これは転移魔法による時間軸のズレが原因よ」


「時間軸のズレだぁ?」


 素っ頓狂な声をあげるデボラを見て、エルムは勝ち誇ったような笑みを浮かべる。


「そう、転移魔法は座標をずらす魔法だけど、貴方達のような素人が思うほど万能ではないわ。長距離転移の場合は、座標を変えるのに数分から数時間かかることもあるし、不完全な魔法式で超長距離転移する場合は日単位で時間が経過しても不思議じゃないもの」


「じゃあ、あの場所はこの辺りにあるわけじゃなくて、遥か遠い国の可能性もあるってこと?」


「あり得るわ、基本的に時間軸のズレは距離に比例するから。だけど、あの魔法詠唱者マジックキャスターが転移に使ったのは真言魔法。古代魔法や精霊魔法みたいな単純な術式ならともかく、千年に一人の天才にして神代のエルフである私でもない限り行使することすら困難な真言魔法を使って、転移なんて最高難度の術法を儀式なしで発動させたんだから、近場でもミスで大幅に時間軸がずれたってケースも考えられるわね。まっ、所詮神ならぬ人の技では限界があるってことよ。限りなく神に近い神代のエルフである私ならともかくね」


「ちっ、壁でもぶち抜いて、無理やり外に出りゃ良かったな。アジトが何処の国にあるかすら分からねえんじゃ、追いかけようがねえぜ」


「たしかに世界中どこに潜んでいるか分からない人間を探すとか、雲を掴むような話ですね………」


 木箱に椅子代わりにするデボラの隣で、ミナトが口に手を当てながら思案を巡らせる。


「ところでよ、さっきからおチビちゃんが古代魔法やら精霊魔法やら真言魔法やら得意げに語ってるが、なんの違いがあるんだ?」


「呆れた、仮にも貴方冒険者でしょ?基本的な魔法体系すら知らないとか、勉強不足甚だしいわ」


「ははっ、ボク達も攻撃魔法とか回復魔法、補助魔法の種類なら知ってるけど、魔法体系に関しては知識が無くても冒険するだけなら困らないこともあって、何となくでしか知らないんだよね。もし良かったら教えてくれるかな」


 ミナトが言う通り、冒険者は即物的であり、戦闘において必要となる魔法知識、つまりどの魔法がどれほどの威力を持っていてどんな魔物に効きやすいか、といった内容については魔法詠唱者マジックキャスターが舌を巻くほど精通していることも多いが、原理原則といった教科書的な分野においては初歩的な事すら知らない者がほとんどである。


 僅かに知識を有している者も、仲間の魔法詠唱者マジックキャスターから半強制的に聞かされているケースが多く、純粋な学問として魔法の理解に務めようとする者は、奇人変人のレッテルを貼られてもなんら不思議ではない。


「仮にも国王が頭を下げて教えを乞うなら、教えないわけには行かないわね。そこのデカ女も有難く拝聴すること。いいわね?」


「あいよ」


 デボラはわざと分かりやすく大きな溜息をつくが、当のエルムはそういった反応に気後れすることなく、杖を教鞭代わりに意気揚々と説明を始める。


「まずは基本中の基本だけど、魔法は主に四つに分けられるわ。古代魔法、精霊魔法、神聖魔法、そして真言魔法。この中で真言魔法が圧倒的に格上………いえ、神と人ほどに隔絶した、まさに別格の最高位魔法であることは当然として、人間でも使える三つの魔法について解説してあげる」


 得意げなエルムの表情に、ますますデボラの眉間に寄る皺は深さを増していく。


「まず大前提として、魔法はこの世界とは異なる世界に満ちている力を、様々な手法で持ち込んで、奇跡として発現する方法の総称なの。異なる世界は、アストラル界とか神界とか精霊界とか幽世かくりよとか、とにかく色んな名前で呼ばれているけど、姿を持たない力がそのまま存在している世界であることは確かよ。そういう意味では、真言魔法は特別しても、四つ魔法とも基本的な原理は同じなの」


「ボク的にはアストラル界が好きかな」


「そ、そう」


 エルムは、急に爛々と目を輝かせ食い気味に発言するミナトに一瞬怯むが、すぐに気を取り直し杖で空中に字を描く。

 幾つもの文字が宙に浮かび、エルムが語った言葉の要旨が図となっていく。


「おおっ、なんだこりゃ、凄えな。これも真言魔法ってやつか?」


「これは精霊魔法で光を発生させる術式を応用してるだけ。………じゃあ、せっかく今見せたわけだし、まずは精霊魔法から説明するわ。精霊魔法は原始的で稚拙で野蛮な魔法よ」


 上機嫌に語りだすエルムの口から発せられた偏見に満ちた言葉に、ミナトはただ乾いた笑いを浮かべるしかなかった。

面白かった、これからも読みたい、AI先生による絵が可愛いと思った方は是非、☆評価、ブックマーク、感想等をお願いいたします!!

基本毎日投稿する予定ですので、完結までお付き合い頂ければ幸いです。


ヘイトスピーチは基本ですね

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