謎
平原に2頭の馬が奏でる馬蹄の音が広がる。
黒き小鬼の王と黒竜、2度の死闘を終えたミナト達は、洞窟の近くに繋いでおいた馬を駆り、王都へ向かっていた。
馬が背の低い草むらを割るように軽快に歩を進めると、初冬の冷気が肌を撫で、火照った身体を優しく冷やす。
いよいよ王都が見えるところまで近づくと、馬のいななきを聞きつけた見張り番が櫓から身を乗り出し、王都の中に向け合図を出す。
「なんだありゃ、あんな櫓いつ出来たんだ?」
一際大きな荷馬に跨ったデボラが片手で日差しを遮りながら、半日ほど前に出発したばかりの王都に出来た見慣れぬ建造物を怪訝な面持ちで見つめる。
「防衛のための施設だけ急いで作ったんですかね。とりあえず、皆に会いに行きましょう」
ミナトは訝しがるデボラを尻目に、手綱をしごき速度を上げる。
「ちょっと、急に走らせないでよ!!落ちちゃうでしょ!!」
「ははっ、ごめんごめん」
ミナトの胴体に回されたエルムの細くか弱い両腕に力がこもり、背に当たる微かな膨らみがより鮮明に感じられる。
ミナトはその感触になるべく気づかないよう努力しながら、王都の入り口に建てられた急拵えの門をくぐり、馬から降りる。
「おかえりなさい、ミナト。日帰りのはずが5日も帰らないなんて、どこまで行ってたの?」
ミナトがエルムの下馬に手を貸していると、背後からアルベラが声をかける。
「ただいま、アルベラ。ところで5日ってどういうこと?確かに洞窟探索に時間はかかったけど、王都を出てから1日も経ってないと思うんだけど………」
「なるほど、厄介な事件に巻き込まれてたみたいね。ワタシの推測でしかないけど、恐らくは………」
「なんなのよ、こんなの本当に村以下じゃない!!」
アルベラの言葉を遮るように、甲高く少し甘ったるい声が王都に響き渡る。
周囲の人々は声の主が田舎では滅多に見かけることのないエルフだと気づくと、その姿をひと目見ようと持ち場を離れ、遠巻きに観察する。
「はいはい、さっさと作業に戻りなさいっ。それにしても、うるさいわねぇ。ミナトなんなの、このちびっ子。まだ託児所を作るほど余裕ないんだけど」
ミナトが不在の間、王都の整備を任せられていたアルベラは、エルムを視界に入れることなく、揶揄うような口調で言った。
エルムは自身が想像していた絢爛豪華な大都市とは全く異なる王都の姿を目の当たりにし、しきりに悪態をついているが、ミナトの目から見た王都は五日の間に劇的に改善されていた。
先日までは退避してきた村人達が自らの居場所を求め彷徨うように大路を埋め尽くし、雑然極まるといった様子であったが、数日経ち混乱も収まったのか、相変わらず行き交う人々は多いものの顔つきには落ち着きが見られる。
ただの広野に過ぎなかった王都は、大路を中心とし大まかな町割りがなされるまでになっており、区画ごとに等間隔に整然と天幕が立ち並び、簡易な水場や馬小屋なども建てられている。
ゴミの集積場や物資の保管場所なども定められ、そこには小さいながらも確かに街としての秩序が生まれていた。
「えっと、彼女は途中で会った魔法詠唱者でエルムって言うんだ。色々あって………本当に色々あったから、それについては別に話すんだけど、その過程でスカウトして、シンギフ王国で魔法に関する事を受け持って貰うことになったんだよ。事前に何の相談もなくゴメンね。それに、ボク達のいない短い間に、ここまで整えてくれてありがとう」
「礼も謝罪も必要ないわ。私はミナトの臣下だし、ここはミナトの国だもの。それにしても、本当に何かする度に新しい女を引っ掛けてくるのね。ここまで来ると感心するしかないんだけど………」
アルベラが半ば感心し、半ば呆れながら言う。
「んっ、夜の帝王の貫禄。宵越しの女は持たない主義」
「リオ、いつの間に戻ってきてたの!?」
突如背後から聞こえた耳馴染みのある声にミナトが振り向くと、そこには山ほどの竜鱗や竜牙を抱えたリオがいた。
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しばらく王都での話が続きます