夢みた者
エルムの画像を登場人物紹介に追加していますので、是非ご覧ください!!
「これで元の洞窟に繋がったわ。小鬼と戦った場所に戻れるはずよ」
エルムは魔法式を書き込んだ扉の前でミナト達に向かい言った。
「転移魔法って呪文を詠唱する以外にもやり方があるんだね」
「真言を使った転移魔法は発動が安定しにくいの。時間があるなら魔法式を使ったほうが簡単だし、確実よ。これも、私みたいな豊富な知識と魔力があってこその方法だけどね」
薄い胸をこれでもかと張るエルムに、ミナトは感嘆の声をあげる。
「どうせなら洞窟入口にする配慮が欲しいところ」
「私がいなかったら一生閉じ込められたままなのに、態度が大きいわね!!………まっ、国王専属魔術師範兼宮廷最高顧問魔術師兼魔法尚書兼王国魔法学院長である私の初仕事だもの、多めに見てあげるわ」
「肩書き増えてねえか?」
「中身のない人間ほど肩書きを誇るって、誰かがゆってた」
「早くエルムが満足してくれるような行政機構を作らないとね。とりあえず、まだ読めそうな書物は掻き集めたし、目ぼしい道具も回収できたかな。あんまり長居すると、外に繋いでる馬が獣に襲われるかもしれないし、ここまでだね。エクリウスの尻尾を掴むためのヒントになるかは分からないけど、伝手を使って調べてみるよ。………じゃあ、帰ろうか、王都へ」
「んっ、私は野暮用でちょっとだけ残る」
「まだ何か気になることでもあるの?調べものならボクも残るよ」
「服の内側がベトベトだから綺麗にしたい。このままだと美少女が汚少女にクラスチェンジしたと思われる。エルムの魔法もまだまだ」
「貴方が血のプールで泳いだから悪いんでしょ!!」
リオは服の胸元に指をかけ、内側に空気を送り込むように引っ張った。
僅かな隙間から覗く豊かな双丘に、ミナトは思わず視線を逸らす。
「でも、リオを一人にするのは………」
「覗きイベント希望?前向きに検討する方向で調整に入るための会議を招集する」
リオはサービスと言わんばかりに裾をチラリと捲る。
「あっ、いや、そういうのじゃないから、先に戻ってるよ!!………リオなら大丈夫だと思うけど、気をつけてね」
リオはミナトに向けグッと親指を突き立て、小さく頷いた。
「どこへ行くの?」
どこまでも続く薄暗い回廊。
目を凝らさなければ互いに顔すら認識できないような鬱屈とした空間で、僅かな光に照らされた2つの影が揺れる。
「そうか、竜でも君を止められなかったか………どうやら、私の旅路もこれで終わりのようだ。だが、私は間違っていなかった。永遠の時を生きながら待ち望んでいたその時は、手を伸ばせば届くところまで来ていたのだ!!」
エクリウスの叫びは狭い回廊に幾重にも反響し、呪いのように互いの鼓膜を振るわせ続ける。
「話はそれだけ?なら殺す。貴方は危ない。弱いけど、危ない。ミナトにとって、ちょっと危険。だから潰す。何匹湧いてこようと、潰し続ける。最後の一匹が死ぬ時まで」
「あぁ、それで構わない。私は目的のために多くの命を弄んできた。非道に非道を重ね、怨嗟の声のなかで眠り、夢を見た。その夢が指し示す未来を見ることが出来ない事は心残りだが、夢の中で死ねるのならば悪くない。この先は友に託すとするよ」
エクリウスの周りに真言が浮かぶと、リオは目の前に満ちた世界の理を断ち切るように、即座に剣を振るう。
その刃は真言を、そして紫衣を纏った老人の頸動脈を断ち、回廊に僅かな血痕を残した。
「何をしたの?」
エクリウスの命の灯火が消え、真言も闇へと解けていく。
「古い友人への最後の手紙さ………ひとつ忠告しておこう。私は必ずまた君と会う。その私は君を知らないだろうが、事の本質は知っているかどうかではないのだよ。別の私と会った時、君が同じ決断を下すのか、それとも私の同志として同じ夢を見るのか。楽しみにしているよ」
命を失ったはずのエクリウスは、それでも言葉を紡ぎ続ける。
「関係ない。何回会っても、何匹いても、全部殺す。たとえ姿が変わっていても、臭いは覚えた、逃がさない。お友達に伝えて。貴方は私が殺す。私がここにいる間に、必ず全部殺し尽くす」
「ふふっ、良いな、君はシンプルで良い。誰もが君ほど純粋に生きられたら、もっと面白い世界が見られるだろうね………」
エクリウスの肉体は闇に包まれ、指先から塵となって消えた。
肉体も、衣服も、流れ落ちた血すらも、一切の痕跡を残さず消えた命を、リオはただ無言で見つめていた。
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