新たな仲間
「なあ、さっきからアレわざとやってんのか?」
「たぶん無自覚。自分からおねだりするまでご褒美を与えない、鬼畜系男子の鑑。ハーレム王は伊達じゃない」
「まっ、面白れえから、ほっとくか」
遠巻きに眺める2人の視線を受けながら、ミナトは申し訳なさそうな面持ちでエルムの反応を待つ。
「どうかな、やっぱり難しいかな?エルムの年上の友達でも良いんだけど………」
「いるわけないでしょ!!か、勘違いしないで、友達の話じゃなくて、こんな辺鄙な田舎の新興国に来たがる変人がいないってことよ。帝国魔法学院の卒業生は、世界中から引く手数多なの。慈善事業でもない限り、そんな国に仕えるなんて、ないないないないない、絶っ対にないんだから!!!」
「あらま、ちびっ子怒っちまったぞ」
「ハーレムの一員になるためには、彼氏に自分の友達を口説くための相談をされても、前のめりにデートコースを考えてあげる強いハートが必要。この程度で動揺するとは、まだまだお子ちゃま」
解説に徹する2人を他所に、ミナトとエルムの間に気まずい空気が流れる。
「そっか、変なお願いしちゃってゴメンね。エムルみたいな凄い魔法詠唱者がいてくれたら心強いと思ったんだけど、そのためにはもっと国の内政を整備して、安心して来て貰えるような環境を作らなきゃだね。エルムが帝国魔法学院を卒業するまでには、胸を張って来てって言える国を作るから、一度遊びに来てよ。いつでも歓迎するから」
「………ふえっ?えっ、なになに、なんなの??ひょっとして、ずっと私の事を誘いたかったけど、私が未来の魔法界を担う超絶ハイパーエリートだから遠慮してたってこと??」
「そうだね、そういう事になるかな」
「私に直接お願いするのが畏れ多いから、少しでも近いレベルの人材を紹介して欲しかったってことよね??」
「う、うん、だいたいそんな感じかな」
エルムの頬が緩み、表情に余裕が生まれ、顔全体が赤みを帯びる。
「はぁ、これだから人間は嫌なのよね。幾ら神代のエルフが遥かに遠い尊い存在だからって、神殿に祀って崇めてるだけじゃ、いつまでも距離は縮まらないわよ。いいわ、新興国でも王様が自ら頭を下げて乞い願ってるのを無碍にするのは、私の流儀に反するもの。いきなり臣下って扱いは恐縮なしちゃうだろうから、そうね、国王の魔術師範兼宮廷最高顧問魔術師兼魔法尚書って肩書きで、貴方の国にいてあげるわ」
「あ、ありがとう」
「漢字ばっかでゲシュタルト崩壊しそうな肩書き」
「まっ、本人が楽しそうだし、良いんじゃねえか。あのおチビちゃんの力が必要なのも確かだしよ」
先ほどまでの雰囲気が一変し、和やかな空気に包まれるなか、エルムの元にリオがツカツカと近寄り、一枚の羊皮紙を突き出す。
「じゃあ、これにサインする」
「なに?えっと、シンギフ王国加入申込書………って、なんだか変な名前の書面ね。ここに名前を書けば良いの?なによチェック欄って、こんなにも書くところがあるの!?」
「んっ、令和最新版の書式。項目ごとにチェックして、最後に署名」
「もうっ、人間って毎回のこんな面倒な作業してるわけ?ただでさえ短い寿命をこんな無駄なやり取りに費やすなんて、本当に馬鹿よね。えっと『貴方は女性ですか』イエスね。『犯罪歴はありませんか』もちろんイエスよ。『まじめな方ですか』イエスに決まってるでしょ。『いま何問目』えっと………4問目ね。『魔法は使えますか』バカにしてるの、イエスよ。『友達はいませんね』いるわけないでしょ、イエス。『仕事を頑張れますか』イエス、『エリートではありませんね』エリートがこんなとこに一人で来るわけないじゃない、イエス、『男性経験はありませんか』イエス、『国是である、目指せ酒池肉林!!やるぜボク絶倫!!全世界全種族全制覇、どすけべハーレム王国の建国だウェイ!!、守れますか』文章が長くて面倒ね、イエスよ。『ハーレムの一員としてミナトに全てを捧げますか』はいはい、イエスイエス。『これらの項目をよく理解し、国家に忠誠をつくすことを誓いますか』イエスよ。最後に署名っと。これでいいわね」
「あ、あの、エルム、ちゃんと中身を読んだ方が………」
「なによ、せっかく貴方の王国に行ってあげようって言うのに、ケチをつける気?とにかく、これで私はシンギフ王国の魔術師範兼宮廷最高顧問魔術師兼魔法尚書よ、文句ないわね!!」
「あ…………うん、これからよろしくね、エルム」
ひとり上機嫌に鼻歌を口ずさむエルムを、ミナトは複雑な心境で見守るしかなかった。
面白かった、これからも読みたい、AI先生による絵が可愛いと思った方は是非、☆評価、ブックマーク、感想等をお願いいたします!!
基本毎日投稿する予定ですので、完結までお付き合い頂ければ幸いです。
契約書類はちゃんと読もう(戒め)