反攻
皆様新年明けましておめでとうございます!!
今年一年も皆様に幸多からんことを!!
「転移魔法?魔力の揺らぎは感じなかったけど………貴方だぁれ?」
アルベラは再び霧と化し、椅子に腰掛けた。
「はぁ、新手が来る度にいちいち椅子まで戻るのも面倒なのよ、カッコもつかないし。かと言って、手の届く距離でお喋りってのも風情がないから困ったものね………でも、いい加減飽きてきたかも。ミナトだけ無傷で捕まえなさい、後は全部殺して構わないわ。時間は幾らでもあるもの、また今度遊びましょうね、ミナト」
悪魔達が一斉に歓喜の雄叫びをあげ、生きる者も死せる者も平等に蹂躙していく。
「逃げて!!」
ミナトは気を取られた悪魔を蹴り飛ばすと、落ちていたショートソードを拾いあげ威嚇するように大きく振り回し、少女を守るように小さな体で悪魔に立ちはだかる。
(ボクはまた誰も救えなかった………)
既に周囲に命を保つ者はミナトと少女の2人しかなく、悪魔達は突然の乱入者に警戒を払いつつも、新たな獲物の登場を薄暗い悦びを見せている。
幾重にもわたる包囲は堅固であり、例えミナトが万全の状態であったとしても、少女と共にここから逃げることは不可能だろう。
(それでも………)
ミナトは剣を握る手にありったけの力を込める。
(アルベラはボクを生け取りにすることに拘ってる。なら、ボクが剣を振るい続ける限り、時間を稼げる。戦え、死んだ人達の分まで、最後まで足掻け!!)
「合図をしたらボクが敵に向かって切り込む。キミは………」
ミナトは少女に向かって小声で語りかけるが、少女はその言葉を遮るように前に回り込むと、剣を持つミナトの手を握った。
「ミナト、ようやく会えた。ずっと待ってた、呼んでくれるのを。ずっと待ってた、もう一度会えるのを。もう大丈夫、私に全部任せて」
「ボクを待ってた?キミはいったい………」
少女はミナトの疑問を大きく開いた掌で制すと、おもむろに膝を曲げしゃがみ込み「合格、合格、不合格、及第点」などとブツブツ呟きながら、石を拾いあげる。
あまりに自然で、あまりに不自然で、あまりに突飛な行動に、取り囲む悪魔達でさえも静寂と共にその様子を見守っていると、少女は数十個の小石を左手一本で抱え込みながら、落とさないよう慎重に立ち上がった。
「んっ、じゃあ、始める」
パンッ!!
何かが爆ぜる音が響く。
パンッ!!パンッ!!パンッ!!
音が鳴るたびに肌が風圧で震え、大気の流れが身体を揺らす。柔らかな風の波に包まれながら、ミナトは目を疑った。
悪魔達の上半身が次々と消えていく。金等級の熟練冒険者がチームを組んでようやく一体倒せるかどうかといった高位悪魔が、音に合わせ四散し、風に溶けていく。
眼前で展開される奇怪な出来事に思考が追いつかずただ立ち尽くすなか、遅れて悪魔達の咆哮が耳管をくすぐった。
闇夜を具現化したかのような漆黒の翼をはためかせ、地上から、空中から、あるものは駆け、ある者は飛び、あるものは同族を踏み殺しながら、数百の悪魔の群れが一人の少女めがけ突進する。
その信じがたい圧を前にしながら、少女は表情を一切変えることなく、子どもが水面に石を跳ねさせるような気軽さで、礫により悪魔を打つ。
ミナトの心臓が一度脈動する度に、数体の悪魔が塵となり、少女の腕から投擲するための小石が無くなった頃には、数百いた敵勢は数十を残すのみとなっていた。
「ふぅん、変わった戦い方をするのね。剣は抜かないの?飾りってわけじゃないんでしょ」
「剣は手入れが面倒。汚れものは最小限に。賢い主婦の知恵」
アルベラの問いに少女は少し自慢げに、けれども抑揚のない声色で応じる。
「なかなか面白いこと言うじゃない。なら、これはどうかしら、気に入って貰えるといいけど」
アルベラが椅子の手すりに預けていた右手を面倒そうにあげると、何もない空間から血が溢れ出し一本の槍を形作った。
「紅血投槍」
次の瞬間、赤い軌跡が少女のもとへと奔り、身体を貫く。
少女の胸に弾けるように咲いたその深紅の華は、どこか美しく、幻想的ですらあった。
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基本毎日投稿する予定ですので、完結までお付き合い頂ければ幸いです。




